ホンダの山本雅史モータースポーツ部長。

ここ数年、サーキットで元気のなかったホンダが久しぶりにモータースポーツを盛り上げてくれそうだ。

ホンダの看板ともいえるF1は昨年限りでマクラーレンとの提携を解消し、新たにイタリアのトロロッソとパートナーシップを組んで戦うことになったが、トロロッソ・ホンダはオフのテストで好調な仕上がりを披露。復帰4年目にしてファンの期待が高まっている。

2輪のMotoGPでは26歳の中上貴晶がフル参戦することが決定。4年振りに日本人ライダーが世界最高峰の舞台でフル参戦することになった。

国内に目を移すと、スーパーGTではF1チャンピオンのジェンソン・バトンが参戦し、NSX-GTをドライブする。スーパーフォーミュラ(SF)には海外のレースで活躍してきた期待の若手、松下信治と福住仁嶺(にれい)のふたりが出場…。

このように今年は話題が目白押しだが、中でもその松下と福住、そしてF1の登竜門レースと言われるFIA-F2選手権に参戦する牧野任祐(ただすけ)の3人による「ホンダの次期F1ドライバー」の座を巡る戦いは注目だ。

「ホンダとしては日本のモータースポーツを盛り上げるために日本人F1ドライバーを誕生させたいのです。そのために、これまで育成プログラムHFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)のドライバーをヨーロッパに送り込んできました。

今、具体的に誰を次のF1ドライバーにするという話は何も決まっていません。(育成ドライバーたちは)それぞれのカテゴリーで結果を出して、F1マシンをドライブするために必要なスーパーライセンスを手に入れないと話になりません。ひと言でいえば、這い上がってこいということです」

そう語るのはホンダの山本雅史モータースポーツ部長だ。現在、2輪・4輪を問わず、ホンダのモータースポーツ活動を統括する山本氏はさらにこう続ける。

「彼らがスーパーライセンスを取得できた後のこともしっかりと考えています。やはり未来に向かって進んでいくためには可能性を作っておかないといけません。常に先を見ながら準備を進めています。

今年、2輪では最高峰のMotoGPに中上貴晶選手を送り込むことができました。続けて日本人のF1ドライバーを誕生させることができたら本当に嬉しいことだと思います。誰かがうまく上がってきてくれて、2019年のF1に送り込むのがベストのシナリオです」

この言葉からわかるようにホンダは本気で日本人F1ドライバー誕生を目指している。「F1への階段はちゃんと作ってあるので、早く上がってこい!」という状況なのだ。

候補生として名前が挙がっている3人

そこで候補生として名前が挙がっている3人を簡単に紹介しよう。最年長の松下は現在24歳。過去3シーズンはF1直下のGP2及びF2で戦っており、昨年はF2でランキング6位。2016年、17年はマクラーレン・ホンダのテスト兼開発ドライバーも務めていた。今シーズンからは日本のトップフォーミュラレースに強豪ダンディライアン・レーシングから出場する。

昨年度のGP3シリーズで2勝し、ランキング3位に輝いた福住は2018年、SFとF2にダブルエントリーする。今年から飲料メーカーの『レッドブル』が支援するレッドブル・アスリートに選出されたことでも注目される21歳は、SFではチーム無限に所属。昨年、ピエール・ガスリー(F1トロロッソ・ホンダのドライバー)がドライブした15号車を引き継ぐ。ただ、活動のメインはヨーロッパのF2で、SFは全7戦中3戦を欠場する予定だ。

フル参戦するF2ではアーデン・インターナショナルから出走する。アーデンのチーム創設者のひとりは現在レッドブルの代表を務めるクリスチャン・ホーナー。いわばレッドブル傘下のチームで腕を磨くことになる。

昨年、ユーロF3に参戦していた牧野は福住と同様、F2にステップアップ。17年のチャンピオンチーム、ロシアン・タイムから出場する。

3人それぞれが優勝を狙えるトップチームに所属し、年間タイトルとスーパーライセンスポイントの獲得を目指すことになるわけだ。

F1ドライバーになるために必要なスーパーライセンスを取得するには「過去3年間でスーパーライセンスポイント40点を獲得すること」が条件となる。スーパーライセンスポイントは世界の主要レースのランキング上位者に与えられるが、福住と牧野が出場するF2は配点が高く(ランキング1位~3位は40点)、松下がフル参戦する日本のSFは低い(ランキング1位は20点、2位は15点、3位は10点)。

福住と牧野が有利な状況といえるが、山本モータースポーツ部長は「3人全員に可能性はある」と強調する。では具体的にどんな成績を期待しているのか?

「F2の牧野と福住は所属するチームは違いますが、ともにスーパーライセンス獲得の条件を満たすランキング3位には入ってほしい。牧野の所属するロシアン・タイムは前年のチャンピオンチームですのでマシンの競争力は高いでしょうし、チームメイトは経験豊富なベテランです。チャンスは十分にあると思います。

福住の所属するアーデンはF1のレッドブル・レーシングの技術協力もあります。またレッドブルのアスリート契約をしている福住は開発部門である『レッドブル・テクノロジー』でシミュレーターに乗ることができます。これも大きなメリットですので期待できるでしょう。

松下は日本に帰ってきましたが、F1参戦を全く諦めてていません。日本でチャンピオン獲得して、道を切り拓こうとしています。彼が日本のトップドライバーとどう戦うのか我々は楽しみにしています」

日本人の若い才能がホンダF1ドライバーのシートを巡って火花を散らす2018年シーズンのF2とSF――トロロッソ・ホンダが好調な走りを見せ、大きな話題を集めるF1以上に目が離せなくなりそうだ!

◆発売中の『週刊プレイボーイ』14号では、F1を知り尽くしている堂本光一が山本部長からさらに詳しい情報を直撃し紹介! そちらもお読みください。

(取材・文/川原田 剛 撮影/樋口 涼)