スーパースターはネイマールしかいないと語るセルジオ越後氏。

異例の早期発表だ。先月、ブラジル代表のチッチ監督が、ロシアW杯の代表メンバー23人のうち15人を公表。本大会メンバー最終登録期限まで3ヵ月以上あったため、ブラジル国内でも驚きを持って受け止められた。でも、チッチ監督は就任以降、それまで南米予選で低迷していたブラジル代表を立て直して首位通過させただけに、メディアやファンから特に異論は出ていない。

では、なぜチッチ監督は早々とメンバー発表に踏み切ったのか。おそらくメディアやファンの様々な臆測に選手が巻き込まれないようにと考えたのだろう。これは日本でも同じだけど、W杯直前になると「あの選手を選べ」とか「あいつを外せ」とか、どうしても雑音が増える。それに対して先手を打ったというわけだ。

そしてもうひとつは、それだけチームが充実し、出来上がっているということ。攻撃陣はどの選手も決め手に欠き、いまだに新しい選手を試さなければいけない日本代表からすればうらやましい話だ。

ブラジルもかつての黄金時代、例えば3R(ロナウド、ロナウジーニョ、リバウド)を擁して2002年日韓W杯で優勝した当時のチームなどと比べれば、個々の選手のインパクトは弱い。スーパースターはネイマールしかいない。ブラジル国内でも「昔はいい選手がたくさん出てきたけど、今は...」と過去を懐かしむ人は多い。

でも、南米予選で見せた強さは本物だと思う。14年リオ五輪優勝メンバーからジェズス、マルキーニョス、オーバーエイジ枠で選ばれたレナト・アウグストらがA代表でも主力に定着し、各ポジションに好選手がそろった。地元開催だった前回W杯の代表よりも明らかにいいチームになっている。

エースはもちろんネイマール。彼はひとりで相手の守備を崩せるのはもちろん、ファウルをもらうのが本当にうまい。相手が自分を潰(つぶ)しにくるのを逆手に取り、時には必要以上にボールをキープしてファウルを誘う。転び方もうまい。相手は警告、退場処分を受けるのがいやで徐々に腰が引けるので、ブラジルのよさが出せるようになる。現在は右足の骨折で戦線離脱中だけど、本番には十分間に合うはず。

そして強力なのが両サイドバック。右のダニエウ・アウベスと左のマルセロ、彼らの攻撃力はブラジル最大の武器だ。プレスをかけてボールを奪ったと思ったら、あっという間に最前線まで駆け上がり、フィニッシュに絡む。ブラジルのサイドバックといえば、右にカフー、左にロベルト・カルロスのいた時代を思い出す人も多いだろうけど、得点力や技術を含む総合力では今のふたりのほうが上。FWとして起用しても活躍できる能力があるし、実際、試合中にはウイングやトップ下の位置でプレーしている時間帯もある。

その両サイドバックが攻め上がった後ろを守るボランチとセンターバックにも大きくて強い選手がそろって安定している。全体的に見てもバランスの取れた、やってくれそうだなという雰囲気のあるチームだ。

強いて不安材料を挙げるなら過信かな。そういう意味で、今月28日のドイツとの親善試合はいい機会。今のチームは欧州の強豪とは昨年11月にイングランドと対戦しただけ(結果は0‐0)。ネイマール不在とはいえ、試合となれば選手は自然と勝ちにいくもの。前回W杯王者ドイツ相手にどんな試合ができるかに注目したい。

(構成/渡辺達也)