森友改竄、加計、自衛隊日報問題の核心とは? 問題の深層を瀬畑源氏(左)と青木理氏が斬る!

森友学園への国有地売却をめぐり、決裁文書に「書き換えの疑いがある」と朝日新聞が報じ、ついに財務省はその事実を認めた。

行政文書を組織ぐるみで改竄(かいざん)し、偽りの内容を国会に提出するという前代未聞の事件が意味するものは何か?

『公文書問題 日本の「闇」の核心』(集英社新書)の著者で長野県短期大学准教授の瀬畑源(ぜばた・はじめ)氏と、ジャーナリストの青木理(おさむ)氏が、日本の公文書管理が抱える問題点、情報公開の実態を語り尽くす!

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青木 財務省が決裁文書の改竄を認めたことで、大変な問題になっています。

瀬畑さんの新刊にも書かれているように、公文書の管理に関しては昨年来、南スーダンPKOでの自衛隊「日報問題」、森友・加計学園をめぐる「隠蔽(いんぺい)、廃棄」など、いくつもの問題が露呈し続けています。さらに今回、「改竄」までが明らかになった。問題のレベルがこれまでとはまるで違います。

瀬畑 「まさか本当にやっていたんだ…」と驚きました。常識では考えられないことが起きてしまったというのが、このニュースに接したときの率直な印象です。青木さんもご存じのように、近代の官僚制というのは「文書主義」によって成り立っています。つまり、行政が関わるすべての決定事項において必ず文書は作られ、稟議(りんぎ)でハンコが押されることで、責任の所在と信頼が担保される、それが大前提です。

しかし、その文書が官僚によって改竄され信用できないということになれば、官僚は存立基盤を自ら壊してしまうことになる。これは財務省のみならず、この国の行政そのものの信頼を大きく傷つけかねない深刻な問題です。

青木 今回、朝日新聞が「書き換え」をスクープしたことで、ようやく事実関係が明らかになりました。首相は以前から朝日新聞を露骨に敵視し、最近は国会などの場でも悪(あ)し様(ざま)に罵(ののし)り、これは一国の首相としては異様な振る舞いですが、これに朝日が「論」で反駁(はんばく)するだけでなく、徹底した取材でつかみ取った「ファクト」を突きつけて鮮やかに反撃し、政権の体質をあぶり出した。実に見事なスクープ報道でした。

そういう意味では、この国に辛うじてジャーナリズムの矜持(きょうじ)が息づいていたことに安堵(あんど)しますが、同時に浮き彫りにされた政権の内実は、この国の民主主義を根幹から揺るがせるものだと痛感します。公文書管理法がいう「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」である公文書を平然と改竄してしまったのですから。

瀬畑 原本と改竄後の文書を比較すると、財務省が行なったのは「公文書の修正」といった生易しいものではなく、誰がどう見ても「改竄」と言わざるをえません。しかも、改竄した文書を国会の求めに応じて提出していたわけですから、これは青木さんが言われたように問題の次元が異なります。その行為自体が、「有印公文書偽造」や「有印公文書変造」といった刑事犯罪に問われる可能性もあると思います。

青木 本筋とは離れますが、朝日の情報源がどこだったのかは気になります。改竄前の文書を持っていたのは、財務省を除けば国土交通省と検察しかない。メディアが情報源を明かすはずもないし、明かすべきでもありませんから、ここからは推測ですが、今回の情報源は検察筋の可能性が高い。ならば「動機」は何か。

文書の改竄に気づいた検察官がなんとか事件化しようと、メディアに情報を流して世論の「風」を吹かせようとしたのか。それともなんらかの圧力で「捜査を潰(つぶ)された」ことに憤懣(ふんまん)を抱き、正義感から情報を流したのか。それともまったく別の事情があったのか。このあたりにも政権と検察の間に漂う淀(よど)んだ遺恨が潜んでいそうです。

改竄前の「原本」はまっとうな行政文書

■改竄前の「原本」はまっとうな行政文書

瀬畑 改竄が明らかになった以上、「誰が」「なんのために」こんなことをしたのかを明らかにすることが、重要になってきます。そこで注目したいのが、公開された「決裁文書の原本」の記述が驚くほど詳細だったという点でしょう。そこには安倍昭恵首相夫人や複数の政治家の名前と価格交渉に関する経緯が詳しく記されていて、やはり原本から削除されていた「本件の特殊性」という記述を支える内容になっています。

また決裁文書に、関係者や政治家の接触記録を残すのはまれなケースで、この文書を見たとき、「近畿財務局の職員はあの文書に関してはちゃんと仕事をしていたんだなあ」と感じたほどです。

青木 確かにここまで詳しい記録を残すには、それなりの理由があるはずですね。

瀬畑 これは私の推測でしかありませんが、やはり森友学園をめぐる土地の取引というのは、かなり特殊な案件だったんだと思います。そうであったからこそ実際の土地取引の交渉にあたった職員は、自分たちの立場や組織を守るために「こういう事情で8億円近い値引きを判断せざるをえなかったのだ」という理由について、これほど詳しく記録したのかもしれません。

青木 つまり、現場官僚たちの「自己防衛本能」が働いて、いつもよりも詳しく土地売却の「記録」や「経緯」を残したと。言い換えればそれは、現場官僚の「叫び」だったのかもしれません。それほどまでに「ムチャなことをさせられた」という意識があったということでしょうから。

瀬畑 その意味でいえば、改竄前の「原本」は行政が下した決定事項の経緯や背景について具体的に記されているわけですから、公文書の一種である「行政文書」としては極めてまっとうだといえるかもしれません。

なぜなら、日本では情報公開制度を快く思っていない官僚も多く、彼らは情報公開法の対象となる「行政文書」の定義を限定し、その代わり「私的メモ」といわれるような「公文書ではない文書」を作成して、あえて「議事録」を残さなかったりします。そうすることで政策決定の「過程」を公文書に残さないやり方が浸透しているのです。

★後編⇒森友、加計だけじゃない…日本の公文書管理は先進国でありえないレベル

●青木理(あおき・おさむ)1966年生まれ、長野県出身。元共同通信記者。大阪社会部などを経て東京社会部では公安担当。近著に『情報隠蔽国家』(河出書房新社)、『安倍三代』(朝日新聞出版)など

●瀬畑源(せばた・はじめ)1976年生まれ、東京都出身。一橋大学大学院社会学研究科特任講師を経て長野県短期大学准教授。著書に『公文書をつかう 公文書管理制度と歴史研究』(青弓社)など

■『公文書問題 日本の「闇」の核心』(集英社新書、740円+税)改竄が明らかになった森友学園の一件をはじめ、自衛隊の日報廃棄、加計学園の獣医学部新設をめぐって内閣府側からの圧力を示す文書がリークされるなど、公文書の管理に関わる問題が続いている。こうした問題の核心とは何か? 公文書管理と情報公開がいかに重要か、第一人者が徹底解説