48歳にして成長を続ける桜庭和志が手がける“世界初”の格闘技イベントの中身とは?

“グレイシーハンター”桜庭和志が新格闘技イベント「QUINTET(クインテット)」(4月11日、両国国技館)をプロデュースし、自身も出場する。これは打撃なしのグラップリング(組み技)ルールの大会で、柔道の団体戦のように5対5の勝ち抜き戦で優勝が争われるというものだ。

1993年にUWFインターナショナルでデビューし、その後、UFCやPRIDE、RIZINで格闘技史に名を刻んできた桜庭が、キャリア25年にして試みる新たな挑戦とは? 大会直前の“桜庭プロデューサー”を直撃!

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―「QUINTET」開催が直前に迫りましたけど、今はどんな心境ですか?

桜庭 (間があって)…ちょっと忙しいです。選手以外のこともやらなきゃいけないから。

―選手以外のこと?

桜庭 これ(取材)ですよ。試合前だと大体、断りますから(笑)。

―忙しいところすみません(汗)。では、まずグラップリングルールの大会を開催することになった経緯を聞かせてください。

桜庭 (2014年11月に)「メタモリス」(アメリカのグラップリング大会)でヘンゾ・グレイシーと試合した時に結構、盛り上がって。最近は日本でも柔術など組み技の競技人口が増えているので「プロ」の組み技を見せたいという思いもあります。

―ヘンゾ戦は20分闘ってドローでしたが、レジェンドふたりの闘いに観客は熱狂したそうですね。桜庭さんはRIZINでも2回、グラップリングの試合を行なっています。

桜庭 やってみて思ったんですけど、グラップリングでもロープや金網などの壁があるのとないのとでは試合そのものが変わってくる。今回は柔道とかレスリングのように壁がない試合場でやるので、本当の面白さが出せると思います。

―12m×12mのレスリングマットでの試合になるそうですね。

桜庭 五輪でも使用されているレスリングマットを使いますけど、マットに書かれているサークルは境界線じゃないですから、相手を押し出してもポイントにはなりません。

―ポイント制ではないんですね。競技の概要は?

桜庭 5人1組のチームが4チーム出場して、ワンナイトトーナメントで優勝を争います。

―グラップリングでの勝ち抜き戦は珍しいんじゃないですか?

桜庭 珍しいというか、世界初ですよ! 1試合の試合時間は8分、体重差が20kg以上ある場合は4分になります。グラップリングってダラダラと膠(こう)着しがちな試合も多いんですけど、「QUINTET」ではアグレッシブに攻めることが重視されます。だから、ポイント制ではなく柔道のような「指導」を取り入れたんです。

試合中に「極(き)め」にいかない選手からはどんどん指導を取っていきます。膠着を誘うようなクローズドガードも対象ですし、主審が消極的と判断した場合も指導を取ります。

―アグレッシブじゃないと負けになる!と。

桜庭 そうです。8分間ダラ~ッとした試合をしたら、どんどん指導を取られて、指導が3つになったら失格負けですから。そもそもやる気のないヤツがリングやマットの上に立つのがおかしな話なんですよ。

「負けないための試合をするな!」

自身の「引退」について問われると、「引退なんて散々、PRIDEの初期の頃から言われてますよ」と苦笑する桜庭

―最近の格闘技界はプロとアマチュアの厳密な線引きがなくなってきていますが、プロ意識の高い選手は膠着した試合をしない傾向はあるんじゃないですか?

桜庭 いや、もしプロとアマチュアで分けるとしたら、アマチュアの選手のほうが極めにいっていますね。プロのほうが「負けたくない」からって壁に寄りかかって倒されないようにしていますよ。「判定でもいいから勝てば正解」みたいになっているので。

でも、僕はレスリング時代に必ずコーチから言われましたよ。「なぜおまえらはここに来たのか? 勝つためだろ」って。だから僕も今回の大会では「負けないための試合をするな!」って選手に言いたいですね。

―「負けたくない」じゃなく「勝ちたい」を全面に出せと。そういう訓示を桜庭プロデューサーから試合前に全選手に伝えるんですか?

桜庭 それは言いますね(キッパリ)。「攻撃を見せてくれ!」と。

―自ら率いる「HALEO Dream Team」にはジョシュ・バーネット、中村大介、所英男、マルコス・ソウザが参加します。どういう基準でこの人選に?

桜庭 面白い試合をする選手にお願いしたっていう感じですね。

―他には、北京五輪金メダリストの石井慧率いる柔道チーム、柔術チーム、サンボチームが出場します。スタイルは様々ですけど、それぞれが今回のルールを活かせるものですか?

桜庭 それは皆さんが工夫してそれぞれ自分のやりたいように持っていけば勝てると思いますよ。全部の競技に共通しているのは、「極める」=「一本」ということで、ボクシングのチームを入れているわけじゃないんですから。

―チーム内では戦略を話し合ったりしているんですか?

桜庭 細かい話はまだですね。相手チームの選手がどの順番で出てくるのかは前日に公開されるので。順番がわかったら、「どうする?」って感じで考えますよ。勝ち抜き戦ですから、要は最終的に相手の大将を潰すために自分のチームのダメージをいかに少なくして勝ち進むか…そういう話ですね。

例えば、柔道チームなら石井慧選手、こっちのチームだったらジュシュが一番デカいですが、どうやってそれを潰して大将戦に持っていくか。もし一番デカいのが大将だったら、どうやってそこまで楽して持っていくかとか…個人戦とは違う戦術が出てきますね。

―ゲーム性が非常に高くなってくる、と。桜庭×石井戦が実現する可能性もあるわけですが、石井選手と闘ったらどうなりますか?

桜庭 そこはちょっとわからないですね。やってみないと…。

―北京五輪(2008年)の柔道金メダリストの実績を持っていますが。

桜庭 今回はQUINTETルールなんで、柔道をやるわけじゃないですからね。

「引退なんてPRIDEの初期から言われてますよ」

―平日の開催ですし、両国国技館という大会場なので大勝負に出たと思うんですけど、それを最終決断した心境は?

桜庭 決断してないですよ(笑)。

―してない!? 

桜庭 いや、最終的にはそう決まったから決断したのかもしれないですけど、周囲から両国を提案された時は無理だよ~って思いましたよ(笑)。でも、今はやるしかないなって。

―桜庭さんのように実績のある方が今回のような新しい試みに挑戦するのは、かなり心境の変化があったのかなって思うんですけど。

桜庭 いや、特に挑戦だとも思っていないので。

―え?

桜庭 そのままの流れで来ているだけなので。普段、練習でしていることを出せばいいだけの話ですよ。そこも選手それぞれの意識じゃないですか? 極めにいくのか、それとも負けない試合をするのか。それによって会場の沸き方も変わってきますから。

今回は5対5の勝ち抜き戦なので、引き分けは負けと同じで、どんどん消えていきます。自分が勝たなければチームが勝たないルールですから、個人だけの闘いとは違いますよ。

―「チーム5名の合計体重が430kg以下」という規定もありますね。体重制限といえば、最近行なわれたプロボクシング世界バンタム級タイトルマッチは体重オーバーで物議を醸(かも)しましたが。

桜庭 あれは、(体重超過のルイス・ネリに負けた)山中慎介選手はかわいそうでしたよね。

―相手が契約違反しても成立させないといけない責任感があるでしょうから、最後はどうなっても試合をすることになってしまいますもんね。

桜庭 僕もそういう試合を死ぬほどやらされてきましたけどね(苦笑)。

―他人事とは思えないと(笑)。ちなみに20年前、今の年齢になった時のことは想像していましたか?

桜庭 別に何も考えてないです。

―年齢的に「引退」を聞かれることも多いんじゃないですか?

桜庭 引退なんて散々、PRIDEの初期の頃から言われてますよ(苦笑)。その頃から「辞める時は自分で決める」って言ってましたから。なんだか今日の質問は、PRIDEの初期の頃から変わってないですね。

―すみません、聞く側も成長がないですね(苦笑)。

桜庭 僕は成長していますよ。成長しているからこそ、グラップリングの大会をやろうとしているんですから! グラップリングは「地味だ」とか言われることもあるけど、アメリカの「メタモリス」ではお客さんも盛り上がっていました。

日本ではどうなるかわからないですけど、アグレッシブな攻防が見られるルールになっていると思うので、楽しみにしていてください!

(取材・文・撮影/“Show”大谷泰顕)

●「QUINTET.1―Grappling Team Survival Match―」  4月11日(水)両国国技館 17:30開場 18:30開始 詳しくはオフィシャルサイトをチェック!