習主席は昨年の首脳会談でトランプ大統領から痛烈なパンチを食らっている。

3月の全人代で憲法改正を果たし、事実上の“終身指導者”となった中国・習近平国家主席が、ついに各方面で世界の覇権を握るべく動き始めた。

一方、穏健派を次々と切り捨てて“独裁化”するアメリカのトランプ大統領も次々と手を繰り出す。

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衝撃のツーショットだった。

3月26日、北朝鮮の金正恩委員長が指導者となって以来、初めて中国・北京を電撃訪問。習近平国家主席と首脳会談を行なった。

昨年はトランプ米大統領と金委員長が激しい非難の応酬を繰り返したが、今年に入ると金委員長が“ほほえみ外交”へと方針転換。そして韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領の立ち回りで南北首脳会談と米朝首脳会談の開催が決定…と、激しく動き続ける北朝鮮情勢。その流れのなかで、中国の存在感はゼロに等しかった。

それが突如、今回の中朝首脳会談で再びキープレイヤーに躍り出たことになる。朝鮮半島問題を取材し続けている東京新聞論説委員の五味洋治(ごみ・ようじ)氏は、その驚きをこう語る。

「かつて血の同盟といわれた両国の関係も、近年は決して良好ではありませんでした。正恩氏の父・金正日総書記は、市場経済を取り入れ、韓国やアメリカとも国交を結んだ中国を信頼しておらず、本心では警戒していたのです。

その思いは正恩氏も受け継いでいたようで、父の死後、国家指導者となった際に中国側が訪中を要請しても、『そちらが来る番だ』と強弁して結局、実現しなかったといわれています。その後も関係はぎくしゃくしたままで、むしろ中国は昨年から対北経済制裁に本腰を入れていた。このタイミングでの訪中を予想していた人はほとんどいないと思います」

では、なぜ金委員長はそんな中国にあえて飛び込む決断をしたのか。五味氏が続ける。

「5月に予定されている米朝首脳会談に向けて“保険”をかけることが目的でしょう。何しろ相手はあのトランプ氏ですから、どんなパンチを繰り出してくるかわからない。中国をバックにつけておくために、プライドをかなぐり捨てて訪中したということです」

シビアな交渉がいよいよ始まる…

問題は、習主席が首脳会談の席で金委員長にどんな話をしたかだ。

実は習主席も、昨年4月に初めてトランプ大統領と米フロリダで首脳会談を行なった際、痛烈なパンチを食らっている。晩餐(ばんさん)後にチョコレートケーキを食べながら、トランプ大統領はいきなり「シリアに59発のミサイルを発射した」と習主席に告げたのだ。

あまりに急な発言に、習主席は10秒ほど黙り込んでしまったという。

「これは『その気になれば北朝鮮にも同じことができるぞ』という、トランプ氏からの強烈なメッセージでした。習主席はその経験も踏まえ、あのペースに惑わされるなといった助言をした可能性もあるでしょうね」(五味氏)

では、米中両国は北朝鮮問題をそれぞれどう着地させようとしているのか。

「非核化というゴール設定は両国共通ですが、その方法論や順序については隔たりがあります。トランプ氏からすれば、北朝鮮が崩壊しても構わないから核の脅威を早く取り除きたい。一方、中国はゆっくり事を進めて北朝鮮を温存し、影響力を保ちたい。

非核化が実現するなら、そのプロセスの主導権を握り、ゆくゆくは朝鮮半島からアメリカのプレゼンスを排除したい、というところでしょう」

トランプ大統領は、北朝鮮との交渉が不調に終われば軍事オプションに転じるという選択肢も排除していない。シビアな交渉がいよいよ始まる。

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(取材協力/世良光弘)