伝説的悪役レスラーとして名高い、ブル中野

全日本女子プロレス(全女)の伝説的悪役レスラーとして名高い、ブル中野。現役引退後はプロレス解説者としてメディア出演する他、ガールズ“婆”バー『中野のぶるちゃん』を切り盛りするビジネス的手腕も発揮している。

現役の青モヒカン時代からは思いもよらない美魔女に変身したことでも話題になった彼女に、人気復活の兆しが見える女子プロレスの今と、絶頂だった自分たちの時代までを伺った!

-まず、女子プロレスの現在についてお話しいただこうと思いますが、引退後に解説者になった方は少ないですね。

ブル中野(以下:ブル) 現役の後に解説をするのはなかなか難しいんですよ。今まで積み重ねたことを全部ナシにしてイチから始めなきゃいけないので。

私も初めてやった時は昔と今の試合スタイルの違いに戸惑いましたけど、違う目で観なくちゃいけないんだなとわかった時にやっと解説者としての視点を持てたというか。女子プロレスは今は今で本当にスゴいので、それをちゃんと見てくれる人がいるといいなって思います。

―今のスゴいところとは?

ブル まずマイクパフォーマンスは今のほうが絶対スゴい! 自分の思いをうまくお客さんに伝えてるよね。

―その「伝える力」の重要さは、ご自身も早くから意識されてたのでは?

ブル 確かに、私がそれを一番最初に感じたのは93年のアメリカ遠征でしたね。試合はできるのが当たり前という前提で、試合が30%、残り70%が「喋り」だったんです。全女はバチバチやるプロレスだったので、当時の私達の感覚からしたらプロレスじゃなかったけど、これからエンターテインメントの方向に変わっていくんだなって身をもって感じましたね。

今のお客さんは選手が頑張っている姿を見たい人が多いじゃない? お客さんの望むものを見極めて、与え続けるのがプロ。それを試合だけじゃなく言葉でも伝えるのが今のプロレスなのよね。

―変わったのはスタイルだけでなく、現在は団体が細分化して環境も変わりました。

ブル 以前は全女とJWPのふたつでしたから。それがこんなに分かれた中に、全部「一番」がいますからね(苦笑)。「私、プロレスラーです」って言えば、プロレスラーになっちゃう時代で…。その中でも、プロレスが好きだなって思って、いろんなことをやってくれる人がいたら頑張ってもらいたいなと思うんですけどね。

―では、今の若手で見どころがある人がいたら教えてください!

ブル 紫雷(しらい)イオは天才! ムーンサルトというひとつの技を大切に使って、しかもそれでずっと勝てるってスゴいこと。「スターダム」はみんな上手に自分の気持ちをお客さんに伝えている。それと、木村花はもう何にでも使えますよ。

「センダイガールズ」は絶対に全員イイですよね。「マーベラス」は彩羽匠(いろは・たくみ)、門倉凛(りん)、桃野美桜(みお)も今後いくだろうな。「東京女子プロレス」はまだ生観戦したことないんですけど、伊藤麻希ちゃんのマイクは最高だよね。

最盛期は115kgあった体重も60kg減量!

紫雷イオは天才!

―すごくチェックしてるんですね! 東京女子には“筋肉アイドル”才木玲佳もいますが。

ブル あの人は顔もいいしスゴいと思う。でも今の時代、何がもったいないかというとライバルがいないの。私にはアジャ・コングがいたし、長与千種さんにはダンプ松本さん、北斗晶には神取忍だった。そんな風に良いライバルを見つけるのも、その人の才能なのよね。

今はこんなに団体があるんだから「負けたくない」とか言わずにどんどん見つければいいと思う。負けても勝つことはできるんだから。

―確かにプロレスは、試合の勝敗だけが面白さではありませんよね。

ブル うん。負けてもお客さんが「いい試合だった、また観たい!」と思ってくれたらそれでOKなのよね。

―そういう意味では、センダイガールズの白姫(岩田)美叶は全然勝っていないんですけど、ファンは「次こそは!」って応援していて、むしろ価値を感じます!

ブル 昔、ミミ萩原さんが80何戦ずっと負けていて、その後でキューティ鈴木も80何戦ずっと負けてた。じゃあ100回目に勝てるか、101回目に勝てるのかって、みんなで盛り上がるじゃないですか。それが面白いのにね。

―ところで、当時は年間300試合ぐらいあったんですよね?

ブル そうですね、1年で日本全国を3周してましたね。朝、バスに乗ったら寝る、会場に着いたら練習して試合する、その後はスポンサーの人たちとかの接待ですね。で、夜遅くまでいろいろあって帰ってきて寝る…という生活だったんですけど。昔はインターネットもなくて他に娯楽がなかったので、プロレスが来ればその街の人たちがみんな来たっていう時代でしたね。

―今の会場には男性が多いですが、昔は女性ファンがたくさん観ていたと聞きます。

ブル それはクラッシュギャルズとかビューティ・ペアさんみたいなボーイッシュな女の人がいた時代で、その人達が引退して私とかアジャの時代には男性プロレスファンがほとんどでした。それまではクラッシュギャルズさんがちょっと脚でも上げたらキャーキャー言うような女子中高生のファンばかりだったんですけど、いきなり男の「おお~」という声に変わって、ラリアートで音がガーンと出ないと沸かないみたいな。

―よりエクストリームな激しい戦いを求められるようになったと。客層の変化があったとは知りませんでした! また当時は入門希望者が何千人もいたそうですが。

ブル 常にふるいにかけられて、どうにか生き残っていくという世界で、もう全員を蹴落として上に行ってやろうというクソみたいなヤツしか残れなかった(笑)。その中でまた蹴落とし合いがあって、生き残った最後のひとりがチャンピオンとしてピラミッドの頂点に立てる。そうなれるぐらいのヤツは、もう半端じゃなく性格悪いですよ。

―そういうブル中野さんもチャンピオンでしたよね?

ブル はい(笑)。しかも私は王座の防衛記録もあって、今までの中で一番チャンピオンが長いんですよ。

“クソ野郎”が出てくることに期待したいね!

―では史上最も性格の悪い女ですね(笑)! 一方で、今はアクの強いプロレスラーがいないのが少々寂しような…。

ブル そうですね。和気あいあいと楽しくやっている感じで、それが今の時代だと思うし、昔とは違いますね。それを決定的に感じたのは以前、世IV虎(現・世志琥)がガチガチにやっちゃった試合が批判された時。批判が起きたことに逆にびっくりしたんですよ。殴られたら腫れるのは当たり前だし、私たちはあのぐらいやって当たり前だと思っていたので。

それにプロレスをわかっている人は、世IV虎がちゃんとプロレスをやろうとしていたこともわかっていたはず。そういうこともわからない人が批判して、結局、彼女を一度は引退に持っていってしまったので、あれは本当に頭にきましたね…。でも、それで彼女は自分に合った道を見つけて行ったとも言えるし、「全女っぽい」ほうが合ってるんだろうしね。

―その全女っぽさとは?

ブル 「強さ」が絶対条件なんですよ。今は「可愛い」とかもレスラーを売り出す要素として必要だけど、全女では新人時代から基礎をずっと教わって、本当に強い人だけが上がっていくんです。

―なるほど。では今後の女子プロ界について、ブルさん的展望を教えてください。

ブル 絶対的なスターがたったひとりでも出れば、憧れるコもまたたくさん出てくると思う。強くなければレスラーじゃない。能がなければ上に行けない、ただし心がなければトップに行けないというのが私の考えで、やっぱりまずは強くなければダメなんですよ。そしてトップになる頃には後輩の面倒を見たりとか自然と「心」がついてくるんですよね。

今はその前段階の「人を蹴落としてでも上に行こう」ってコは見当たらない。だから、これからはそんな“クソ野郎”が出てくることに期待したいね、アッハッハ!

―ありがとうございます!

●後編⇒美魔女転身も話題!のブル中野が赤裸々に明かす「ダンプ松本のこと」「女子プロレスラーのその後の生き方」

●「ツヨカワ女子プロレスラー最前線2018」は『週刊プレイボーイ』16号(4月2日発売)に掲載!

(取材・文/明知真理子 撮影/五十嵐和博)

■ブル中野(ぶる・なかの)1968年1月8日生まれ。1983年に全日本女子プロレスに入門。先輩のダンプ松本に誘われて悪役に転身し伝説的な存在に。97年に引退してからは解説者、タレントとして活躍するほか、東京・中野で“ガールズ婆バー”「中野のぶるちゃん」を経営している。