トランプ大統領との大勝負を前に、金欠という弱点をさらしてしまった北朝鮮。

「5月に予定されている米朝首脳会談でトランプ大統領とのビッグディールを控える金正恩(キム・ジョンウン)委員長にとって、この辞任劇は意外と大きな“オウンゴール”になるかもしれません」(韓国紙東京特派員)

サッカー北朝鮮代表男子チームのヨルン・アンデルセン監督(ノルウェー)の退任が明らかになったのは3月31日のこと。

昨年11月、タイでアンデルセン監督に単独インタビューを行なったスポーツライターの金明昱(キム・ミョンウ)氏はこう言う。

「アンデルセン監督が指揮を執ったこの2年間で、北朝鮮のサッカーは大きく進化しました。本人も手応えを感じていたようで、インタビューで『2022年カタールW杯の出場も可能』と自信たっぷりに語る姿には続投の意欲を感じました。それが突然の辞任。19年アジア杯の本大会出場を決めていただけに、せめてもう1年は監督を続けてほしかったですね」

辞任の理由は「経済状況が悪くなったため」(本人談)。一体、どういうこと?

アンデルセン監督は1年契約で、その年俸は数十万ドルとされている。そのほかにも平壌市内の超高級ホテル「高麗ホテル」の30階のスイートルームや運転手、秘書などが提供されていた。

「北朝鮮のサッカー協会にとって、このギャラや待遇は破格です」(金氏)

しかし北朝鮮は今、国際社会による厳しい経済制裁の真っただ中にある。前出の韓国紙特派員が解説する。

「制裁の影響は北朝鮮サッカー協会にも及んでいます。昨年は男女チーム共にE-1選手権(旧・東アジア杯)の決勝ラウンドに進出し、女子は優勝を果たしたものの、国連制裁決議を理由に出場賞金は1円も支払われませんでした。

また、16年にはイタリア・セリエAのフィオレンティーナと契約した北朝鮮選手が『国連決議に触れかねない』と放出され、年俸の一部をサッカー協会が手にできないというケースもありました。こうしたことが重なってサッカー協会は深刻な外貨不足に陥り、アンデルセン監督との契約更新を断念したのでしょう」

問題は、この突然の辞任劇を米トランプ政権も目の当たりにしているということだ。

「アンデルセン監督の辞任を見て、『たかだか数十万ドルの年俸も払えないほど経済制裁は効いている』と、トランプ大統領は自信を得たはずです。追い込まれている相手とのディールは強気が鉄則とばかり、“ビジネスマン”のトランプ大統領は首脳会談の席でとんでもない要求を突きつけ、『イエスなら握手、ノーなら戦争だ』と脅してくるかもしれない―金委員長がそう恐れていても不思議ではありません」(韓国紙特派員)

トランプ大統領との大勝負を前に、金欠という弱点をさらしてしまった北朝鮮。アンデルセン監督の雇い止めは首脳会談後の6月以降に延ばすべきだった?