大阪桐蔭の優勝で幕を閉じた“センバツ”春の甲子園。

「史上最強」との前評判も高かった大本命、大阪桐蔭の優勝で幕を閉じた今年の“センバツ”春の甲子園。

結果的にその評判通り、高校野球史にその名を刻む史上3校目の大会連覇となり、初導入された話題のタイブレークこそ実現せずに終わったものの逆転勝ちや延長戦、サヨナラ本塁打と熱戦、接戦の連続に平成以降、最多となる観客54万人を動員する盛り上がり。

早くも次は、夏にやってくるメモリアルな第100回大会を見据え、大阪桐蔭の強さは本物か、敗れ去ったライバル校の本音は――前編記事に続き、現場での取材を終えた恒例の座談会メンバーが大会を総括!

A:スポーツ紙アマチュア担当記者 B:高校野球ライター C:高校野球専門誌編集者

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 決勝戦で根尾(昴、あきら)を打ち崩せずに準優勝に終わった智辯和歌山ですが、かつて甲子園を席捲してきた強力打線が復活しましたね。準々決勝(対創成館)で5点差をひっくり返して延長10回、11-10のサヨナラ勝ち。準決勝(対東海大相模)では1試合の中で4点差と5点差を二度逆転して、やはり延長10回の末に12-10で勝ち、とんでもない粘りを見せて“挑戦者決定戦”の山を勝ち抜き、大阪桐蔭への対戦切符を手にしました。

 準決勝で敗れた東海大相模の門馬敬治監督が試合後、智辯和歌山の打者が空振りした後に尻もちをつくようなフルスイングをしているのを見て「背筋が寒くなった」と漏らしていました。あれだけポテンシャルの高い打者にしっかり振ってこられたら、そりゃ投手は怖いですよ。金属バットですから、ちょっとでも甘いコースに入ったら簡単に外野の頭を越される。智辯和歌山の場合はリードされた場面でもそれを徹底しているのが「強力打線」たる所以(ゆえん)でしょうね。

 ただ、2試合連続の大逆転勝ちも裏を返せば2試合連続ふた桁失点。さすがに打たれすぎですよ。大阪桐蔭の柿木や根尾とは言わないまでも、そこまで他校に見劣りするような投手陣ではないんですけどね。準決勝で初回からリリーフしたエース・平田龍輝が180球を投げていましたから、決勝戦はもう失点の計算が立たなかったでしょう。4回表に2点先制した時にも「このまま終わるわけがない」と観ているほうも思いましたし。

 良くも悪くも高島仁監督のチームだよ。準決勝なんか、イニング前の円陣で失点に繋がる配球ミスをしたキャッチャーにスタンドまで聞こえるような怒鳴り声上げてたもんな。「これで負けたら、帰ってシゴキやぞ!」って(笑)。もうすぐ72歳、元気だよなぁ。

でも、相変わらず守備や走塁の細かいミスが多すぎる。そのあたりが大阪桐蔭との差になっている気がするな。昨年から春の近畿大会、夏の甲子園、秋の近畿大会と3季連続で敗れ、これで4連敗か。試合後に高嶋監督が夏のリベンジを宣言していたけど…まぁこんなこと言ったら怒られるけど、夏に対戦しても同じ結果じゃないか。このままでは今年のチームの勝負付けはこの決勝戦で終わった気がする。

 むしろ東海大相模のほうが夏に対戦したら「もしかしたら」という雰囲気はありましたね。初戦(2回戦)で聖光学院(福島)、続く3回戦で静岡と各地区大会の優勝校を大差で一蹴した試合ぶりには「これは大阪桐蔭より強いかも」という声も挙がっていましたから。ただ誤算は怪我から復帰したエース・斎藤礼二が本来の出来から程遠かったことでしょう。主砲の森下翔太外野手や今大会で2本塁打の渡辺健士郎内野手を中心とした打線は見劣りしませんから。夏までに斎藤が復調することが絶対条件になりますね。

A 今年の夏は記念大会で神奈川は代表2校だから、東海大相模は横浜高校とは戦わなくていいんだよな?

 南北でブロックが分かれることになりそうです。もし東海大相模と横浜が揃って出場することになったら、春夏連覇を狙う大阪桐蔭にとっては脅威でしょうね。

“継投のスペシャリスト”とでも言うべき采配を見せた創成館の稙田達生監督

 準決勝で大阪桐蔭を追い詰めた三重は、まさに“千載一遇”のチャンスを逃しましたね。「もう一回やれ」と言われてもできない試合でしょうけど、ベスト4という成績に関しては決してフロックじゃないですよ。注目度はそんなに高くなかったものの、レベルが高かったと評判の昨秋の東海大会で東邦と壮絶な打撃戦を繰り広げたほど。確かに1番打者の梶田蓮外野手を筆頭にポテンシャルの高い選手が揃っていました。準決勝で好投した定本拓真も背番号こそふた桁でしたが、プロのスカウトが注目していた投手です。

 球速はさほどでもないけど、球威があって程良く荒れていたから大阪桐蔭の打者が戸惑っていたな。12回裏のサヨナラも守備のミスからだし。それでもさすがに終盤へばって、延長に入ってからはヒットを打たれなくてもしっかり捉えられた打球が増えていた。

 それまで継投で勝ってきたチームですから、あの試合も「いけるところまで」のつもりだったはずです。ところが定本が良すぎて、逆に代えるタイミングがなかった。今大会最年少、28歳の小島紳監督。高い授業料を払って良い経験をしましたね。

 そういう意味では、創成館(長崎)の稙田達生(わさだ・たつお)監督は“継投のスペシャリスト”とでも言うべき采配を見せてくれました。金属バット時代の社会人野球で監督を務めていた(九州三菱自動車)人ですから、初めから継投でいくものと決めているのでしょう。あの時代、先発投手が完投するなんて滅多にありませんでしたからね。ベンチに入った投手を全て使って「どこで代えるか」というプランをしっかり作った上で臨んでいたはずです。

 今大会、準々決勝に進出した8チームは全て複数の投手を起用し継投策を取っていました。時代の要請というか、大会をひとりの投手で乗り切れるような野球じゃなくなってます。1、2回戦で敗退したチームの中にも140kmを超す球速を出す投手が何人もいましたが、打者が平気で打ち返していましたからね。木製バットに移行するくらいの思い切った改革をしない限り、この打高投低の傾向はますます拍車がかかりますよ。

 創成館の場合、個々を見ればそこまで力のある投手はいなかった。“中の上”クラスの投手たちを上手く組み合わせて、ああいう勝ちパターンを確立させていたのはスゴい。攻撃面でもチームとしてのプランを持って戦っていたし、最後は智辯和歌山の高嶋監督の執念の前に屈したけど、昨秋の明治神宮大会での大阪桐蔭戦の勝利が単なる番狂わせではなかったことを証明する戦いぶりだったな。

 僕は大会前の展望座談会で北海道・東北勢をダークホースに挙げていたのですが、花巻東(岩手)に加えて、北信越の日本航空石川と星稜(石川)がベスト8に入ったことで、あながち的外れではなかったなと思っています。かつて、野球後進県と言われていた地域が著しくレベルアップしているわけですから。

花巻東の佐々木 洋監督は3回戦の彦根東(滋賀)との0-0で延長戦に突入した投手戦に初戦で快投を見せたエースの田中大樹を最後まで登板させませんでした。出し切って勝っても、続く連戦の準々決勝で大阪桐蔭が待っている。そこに万全の状態でぶつけたかったのでしょう。大阪桐蔭を倒さなくてはこの大会で優勝旗は獲れない。ベスト8ではなく、優勝を狙っていたということです。東北のチームもそういう野球をする時代になったんですね。

プロのスカウトたちが大阪桐蔭より注目していたのが東邦だった

 左腕といえば、彦根東(滋賀)の増居翔太投手にビックリしたけどな。あれは実質的にノーヒットノーランだぞ(花巻東戦で9回まで無安打に抑えながら延長で安打を許し失点)。田中や増居、創成館のエース・川原陸もそうだけど、金属バットでフルスイングの時代に遅い球で打者を手玉に取る姿は見ていて痛快だったよ。

 痛快といえば、21世紀枠の膳所(滋賀)でしょう。大会前からデータ野球が話題になっていましたが、かなり極端なシフトを敷いて、でも実際にそこに打球が飛んで行った時には甲子園のスタンドからもどよめきが起こりました。最後は日本航空石川に大差をつけられましたが、選手のポテンシャルを考えると仕方がないところです。そこはデータだけではなかなか越えられない。

プロ野球なら専門のスコアラーがこうした作業をしていますけど、高校生でもここまでやれるということを実証してくれましたよね。公立の進学校が取り組んでいる意味でも注目されましたが、私学の強豪校でも本格的に取り入れるチームが出てくる気がします。

 ともに私学ですが、附属中学の軟式野球部や地元の選手を主体にする星稜と、越境入学で県外から好選手が集まってくる日本航空石川という石川県の2校も能力の高い選手が多かったですね。対照的な両校が夏に代表の座を賭けて一騎打ちになったらどちらが出てくるかな。

 その日本航空石川に3回戦で敗れたのが、昨秋の明治神宮大会優勝校で優勝候補の一角と見られていた明徳義塾(高知)でした。初戦(2回戦)の中央学院(千葉)戦では負け試合を9回裏の逆転サヨナラ3ランでひっくり返し、続く日本航空石川戦では今度は勝っていた試合を逆転サヨナラ3ランでひっくり返されましたが、試合後、馬淵史郎監督の「逆転3ランで勝って、逆転3ランで負ける。自分の人生のようだ」という言葉はなかなか含蓄がありましたね。変な表現かもしれませんが、この監督は本当に“負けた姿”が絵になる。

A 実は今大会、プロのスカウトたちが「選手の能力では大阪桐蔭より上かも」と注目していたのが東邦(愛知)だった。確かに石川昴弥、熊田任洋の両2年生内野手を筆頭に体格や身体能力に恵まれた選手が揃っていたからね。同じスター軍団でも、大阪桐蔭の選手たちは完成度が高く、見方を変えるともう出来上がってしまっている。東邦の選手たちは「素材そのまま」という感じで、スカウトから見たら魅力的に映る。

もっとも、それが優勝と初戦敗退という成績の差になったという見方もできるんだけどな。花巻東の田中の変化球をみんな力任せに打ちにいって、まさにハマってしまった。大阪桐蔭はそこをしっかり攻略して、まぁ東邦戦を観て研究できたという有利さもあるんだろうけど。

 さて、夏にはいよいよ第100回記念大会を迎えます。大阪桐蔭が勝ち続けるのか? なんといっても注目が集まります。

 チームとしては横綱相撲で優勝した大阪桐蔭でしたが、準決勝の三重戦のように試合展開によっては“負ける要素”があることも示した。まだ「絶対王者」という感じではないでしょう。秋には6人のドラフト指名があると噂されるスター軍団ですが“二刀流”の根尾は投打に評判通りの活躍を見せたもののドラフト1位確実と評価が高かったエースの柿木や4番に座った藤原恭大(きょうた)外野手などは、さほど強い印象を残すことができなかった。

そのあたりの要因は「史上最強」といった前評判に対するプレッシャーなのか、それとも我々に過大評価の面があったのか、今の時点では判断が難しいところです。

 ただ、その状態でも春の旗を獲った。夏までに間違いなくレベルアップしてくるし、間違いなく春よりも倒しにくいチームになる。春夏連覇はかなり高い確率で成し遂げられると俺は予想するな。

 逆に、このチームが負けるとしたら、それは果たしてどんなチームなのか?という興味もありますね。真っ向勝負を挑んで勝てるチームがあるのか? あるいは、伏兵が足下を掬うのか? いずれにしても、今の高校野球は大阪桐蔭を中心に回っているということは間違いない。西谷監督が目指したという、かつての王者・PL学園を記録の面でも越えようとしていますね。