鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が米朝首脳の動向を分析する!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

確実に現実味を帯びてきている、アメリカと北朝鮮の首脳会談、そして韓国と北朝鮮による南北首脳会談。トランプと金正恩が手を打てば、予期せぬことが起こりうると、佐藤氏が前編「日本にとって大変な外交敗北とは?」に続き、警告する。

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佐藤 それから、トランプはこの会談を「ネゴシエーション(=交渉)する」とは言わずに「ディール(=取引)する」と言っているでしょ。ネゴシエーションというのは、こっちと相手に主張があって、徹底して議論して折り合いをつけるもの。一方でディールは「俺はこれをやって、おまえはこれをやる。それを足して2で割って取引しようぜ」といったことを意味します。

では、米朝会談が実現すれば、どんな展開が待っているか。トランプが金正恩と会った時点で「成功」となります。なぜなら、トランプが企画・立案した米朝会談を、トランプが実行して、トランプが評価するからです。そうしたら、その評価というのは「成功」か「大成功」しかない。だから、米朝会談が成立すればアメリカは妥協して両国の関係は良好になる。それしかないんです。

鈴木 この展開を、ロシアはどういうふうに見ているでしょうか。ロシアと北というのは、歴史的に見ても深い関係にありますよね。

佐藤 ロシアは困ったことになったなと思っているはずですよ。6ヵ国協議(北朝鮮の核問題について対話による解決を目指す協議。北朝鮮、中国、アメリカ、韓国、日本、ロシアの外交当局者間で行なわれる)の枠組みの中で、ロシアは北東アジアにおける一定のゲームルールを決めていきたかったのですが、不安定性の高いトランプと金正恩がふたりで何かを決めるとなると、想定できないことがかなり発生するかもしれない。

まず、万が一米朝会談が決裂した場合は軍事行動が起きかねない。逆にうまくいった場合、アメリカ企業が徹底的に北朝鮮に進出することになる。すでにアメリカは、ロシアや中国と同様に中東やアフリカの独裁国家と良好な関係をいくらでも持っていますから。

急に北朝鮮がアメリカの友好国になってしまえば、北朝鮮とアメリカでロシアに対抗していくことになる。そうなると、ロシアにとっては面倒くさい。だから、急激な変化は困るというのが、ロシアの本音だと思うんです。そしてそういう変化を作り出すことができるのがトランプの怖さなんですよね。

日本は今は布団をかぶって寝ていればいいのに…

鈴木 では、日本の出方はどうなるでしょうか?

佐藤 不安定性が極めて高いトランプと金正恩のゲームですから、今の状況では中国、ロシアは布団をかぶって寝ている。日本もそうすればいいのに、外務省は日中会談をやろうとしたり北朝鮮と焦ってパイプをつくろうとしています。今は布団をかぶって寝て、米朝会談がどうなるか様子を見てから稼働すればいいのに。

ここで、秋葉剛男外務事務次官体制の弱点が出たよね。何も考えないで、官邸の言われた通りに動き回っている。自分の生き残りしか考えていない杉山晋輔前次官だったら「今はロシア一本でいったほうがいいんじゃないですか。北朝鮮は面倒ですから、ここは様子見で」とか、まだ言えたと思うんだよね。

秋葉次官はそこまで考えが至ってなくて、5、6年は次官をやると思っているけれども、そこまで安倍政権が続いていなければ、また次のヤツにすり寄ればいいんだという太鼓持ちの思想でやっているからフラフラしている。一体、外務省は何をやってるんだという話ですよ。

このように、日本のすぐ近くで大変な出来事が起こっているけど、日本国内は森友問題で大騒ぎしています。北朝鮮情勢で大きな動きがあって、北方領土交渉も重要だというのに、野党も新聞も財務省がアウトになるか、安倍政権ごと一蓮托生(いちれんたくしょう)になるかという方向でしか見ていません。

その間に北朝鮮とアメリカが手を握って、日本全域は北朝鮮の核ミサイルの射程圏内に入っている。そういったことが、国会で全く議論されていない。森友で忙しく議論しているうちに、そういった恐ろしいシナリオになる可能性もあるわけです。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決のため、日々奔走している。昨年公民権が7年ぶりに回復し、衆院選に出馬。衆議院議員の鈴木貴子氏は長女

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として精力的に活動中

■東京大地塾毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室で行なわれる新党大地主催による国政・国際情勢などに関する分析・講演会。参加費無料で鈴木・佐藤両氏と直接議論を交わすことができるとあって、毎回100人前後の聴衆が集まる大盛況ぶりを見せる。次回は、4月26日(木)16時~。詳しくは新党大地の公式ホームページへ