「地方の地価上昇に『デフレ脱却』と浮かれてはいけない」と語る古賀茂明氏

公示地価が3年連続上昇し、「デフレ経済から脱却した」という喜びの声が聞かれる。

しかし、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、インバウンド需要一辺倒による地価上昇に危機感を隠さない。

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公示地価(2018年1月1日現在)が前年比プラス0.7%で、3年連続の上昇となった。

目を見張るのが地方圏の地価である。90年代前半のバブル経済の崩壊以来、下がり続けてきた地価がジリジリと回復し、0・041%の微増ながら、実に26年ぶりにプラスに転じた。なかでも札幌、仙台、広島、福岡4市の商業地は7.9%と、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)の3.9%を大きくしのぐ伸びとなっている。

このデータに、巷(ちまた)では「デフレ経済から脱却した」という声がしきりに聞こえる。確かに、地方都市の商業地価の値上がりは悪くないニュースだ。大都市圏だけでなく、地方でも人、カネ、モノが回り始めているのだろう。

だが、喜んでばかりいると、足をすくわれかねない。なぜなら、この地価上昇は訪日観光客の爆発的な増加がもたらした側面が大きいからだ。

17年に日本を訪れた外国人観光客は約2869万人。その伸び率はここ数年、年20%にもなる。そのため、都市圏だけでなく、地方でもホテルや観光・商業施設用地の需要が高まり、日本全体の地価を押し上げているのだ。

しかし、急激な地価上昇はテナントやアパートなど、不動産賃料の高騰をもたらす。そうなると、インバウンドブームで給料がアップした観光業や建設業の従事者は耐えられるかもしれないが、それ以外の産業で働く人々のなかで、高い家賃を払えないというケースが出てくるかもしれない。

その実例を、私は昨年訪れた米サンフランシスコ市で目の当たりにした。アップル、グーグル、フェイスブックなどの本社が集まり、ITブームに沸くサンフランシスコの家賃は、全米1位の高さとなっている。

ワンベッドルームの小さなアパートでも3500ドル(約37万円)前後、ツーベッドルーム以上の一軒家となると、日本円で100万円近い物件も珍しくない。あまりに高い家賃に定職と定収入がありながら、車上生活者=ホームレスに転落する人もいるほどだ。

円高になれば、一気に下火となる可能性も

さすがにこれは極端な例かもしれない。しかし、所得増とは無縁の産業従事者が、安い物件に住むか、低家賃を求めて泣く泣く郊外へと引っ越すという現象は、日本の地方都市でも十分に起こりうると思う。

インバウンド需要による好況は不動産、建設がメインという点で、ひと昔前の公共工事に頼りきりの地方経済を思い出させる。しかも、インバウンド需要は円高になれば、一気に下火となる可能性もある。そうなれば、地方は再び国のバラマキ政策に依存して生きる羽目になってしまう。

そうならないためには、観光以外の地方創生策を充実させることだ。再生可能エネルギー、ITなど、世界で伸びている新産業を地方創生の柱として育成し、インバウンド需要の勢いが衰えても残りの柱でしっかり稼げる力をつけることが大切だ。

地方圏の地価上昇に伴う「デフレ脱却達成説」には危うさを感じる。インバウンド需要の一辺倒では頼りない。地方創生を本気でやるつもりなら、今こそ複線的な成長戦略を描くべきなのだ。

もう一度言う。地方の地価上昇に「デフレ脱却」と浮かれてはいけない。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中