中国人は移民先でもナショナリズムに燃える傾向が強いと語るモーリー氏。

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが中国の言論ついて問題提起する!

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今年1月、米大手ホテルチェーンのマリオットが顧客調査でチベット、台湾、香港、マカオを「国」として扱ったことが大問題となり、中国政府への謝罪に至りました。同月には、日本の生活雑貨ブランド「無印良品」を展開する良品計画も、中国で配布していたカタログ内の地図に「釣魚島」(日本名:魚釣島)が未記載だったことを理由に、カタログを廃棄することになりました。

従来、中国のナショナリズムは基本的に国内で吹き荒れるものでしたが、最近はチャイナ・マネーの威力と中国政府の後押しもあり、世界中の華僑に浸透しているようです。

例えば、アメリカ。デューク大学に通う中国出身の女子学生が「中国政府はおかしい」「もっと自由になるべき」という旨の発言をし、別の中国人学生と衝突したのですが、その様子を撮影した動画がネット上にさらされると「生意気だ」「売国奴だ」と女子生徒は大炎上。個人情報まで流出し、中国に残った家族もハラスメントに遭ったといいます。

またオーストラリアでも、シドニーの中国料理店で働いていた台湾出身の女性留学生が大陸出身の雇用主に「台湾は中国の一部か?」と問われ、「違う」と答えると即日解雇されたという事件があります。しかも、その理不尽さに憤った彼女がことの顛末(てんまつ)をフェイスブックに綴(つづ)ったところ、彼女自身に罵詈雑言(ばりぞうごん)が投げつけられ大炎上。さらに、この騒動に便乗した『環球時報』(中国共産党の機関紙傘下のタブロイド紙)が「この店長は立派だ。みんなで応援しよう」と記事にしたところ、店の来客が激増したとの後日談もあります。

通常、移民という道を選ぶ人は母国にない「豊かさ」や「チャンス」や「自由」を求めるケースが多く、移民先で富や自由を得ればその国に同化していくことが多いですが、中国人はどちらかというと移民先でもナショナリズムに燃える傾向が強い。もちろん各国で中国人コミュニティが発達していることもあるでしょうが、その背景には中国政府のプロパガンダが国境を越えて"輸出(エクスポート)"されているという事情もあります。

習近平による「言論の一帯一路」

一例を挙げれば、米最大の華字(かじ)新聞『僑報』は、基本的に中国政府の見解を忠実に掲載します。米国内のニュースに関しては客観性があり、むしろリベラル寄りの論調ですが、中国関連記事ではまるで政府機関紙のような論調になるのです。

また最近、中国政府はGoogle社やTwitter社などに都合の悪いコンテンツの削除要求を繰り返しています。IT大手企業はどうしても中国市場へ進出したいでしょうから、ビジネス上の判断として"屈服"する可能性は十分にありえるでしょう。

いうなれば、これは国境なき言論統制――国内の約33%の支持者だけのほうを向くトランプ大統領のアメリカが超大国の座から撤退しつつある今、その空白を埋めるべく、剥(む)き出しの覇権主義で膨張を続ける中国の習近平"終身国家主席"による「言論の一帯一路」です。

こんな状況でわれわれがすべきことは、「中国怖い」「中国人は出ていけ」と声を荒らげることではありません。大事なのは彼らに対するカウンター、中和する力です。今こそナショナリズムに汚染されていない中国人を受け入れ、その言論の自由や、意見の独立を応援するべきときでしょう。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。

■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(小社刊)が好評発売中!

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