議会から“村八分”にされた勝井太郎宇陀市議(39歳、無所属)。地元のタクシー運転手に話を聞くと「勝井さんは、ここではちょっとしたスターなんです」と言うほど、住民からの人気は高いらしい

相次ぐ公文書の改竄・隠蔽によって激しい批判を浴びている安倍政権。しかし、地方議会に目を向けると、もっとヤバイ腐敗が起きていた!

奈良県北東部に位置する宇陀(うだ)市の市議会で、大勢の議員がグルになって、ある議員の口封じをしているというのだ。週プレは早速、現地で関係者に直撃取材を敢行! すると事態は思わぬ方向に転がって…?

■「これが冤罪被害者の気分なのか」

奈良県宇陀市議会(定数14・欠員3)が「村八分」騒動で揺れている。

市の公共事業に関する入札のあり方に疑問を突きつけた勝井太郎宇陀市議(39歳、無所属)に対して、議会が激しく反発。2度にわたる辞職勧告決議が可決されたばかりか、3月末の本会議では8人の議員が欠席して延会となり、勝井市議の質問が封じられるという事態になっているのだ。

近畿大学卒業後、AIGエジソン生命勤務などを経て、勝井市議が市議選に初出馬したのは2010年のこと。

「この選挙で勝井市議はトップ当選を果たしています。4年前の市議選でも2位当選。39歳と市議の中で最も若いことから、将来の宇陀市長候補と嘱望されていたほどでした」(地方紙記者)

そのスター市議が議会から辞職を迫られ、質問も許されない状況に追い込まれるとは―いったい、何があったのか? 宇陀市に飛び、勝井市議を直撃した。

きっかけは昨年12月9日、勝井市議がフェイスブックに投稿した一文だった。その4ヵ月前の17年8月、宇陀市榛原(はいばら)総合センターの大規模改修工事の入札が開札され、予定価格の94・3%となる1億8360万円で落札された。

ところが、それから3ヵ月後の12月に突然トイレの追加改修工事話が持ち上がり、市が議会へ承認を求めてきたのだ。実はこの承認に先立ち、9月の議会ではこんなやりとりが交わされていたという。

某市議「追加工事があるなら、説明してほしい」

市担当課長「安易な追加工事は慎まなければならないが、大規模にならない範囲で財政当局と相談したい」

勝井市議がこう言う。

「このやりとり、おかしくありませんか? この時点で総合センターの建設はまだ仮契約の段階。なのに、わざわざ議員が追加工事について質問し、市が追加工事の検討を認めるような発言をしている。双方がただの思いつきでしゃべっているとはとても思えません。

市から事前に追加工事の予定が外部に漏れていると考えるのが自然でしょう。入札前に工事予定の情報が漏れ、そこで裏条件があって入札前に落札企業が調整されていたとすれば、官製談合を疑われても仕方ありません」

議会幹部たちが「なんちゅうことを書くんや!」

不審に思った勝井市議が調査したところ、宇陀市では公共工事がまず94%前後で落札され、その後、予定価格と落札価格の差額を使って追加工事が行なわれるケースが多発していた。

「しかも、その最終額がどれも申し合わせたように“予定額の約98%”に張りついていたんです。それだけでなく、宇陀市は今回の落札方式での入札時に国交省が禁じている『最低落札価格』の公示も行なっていた。

この一件は会計検査院も不適切と認定し、国交省が市に改善を求めていたことも後にわかっています。この不適切な入札の実態も合わせて、フェイスブックに『今の入札のやり方では、入札談合等関与行為防止法違反になってしまう可能性がある』と書きました」

勝井市議に対する苛烈(かれつ)なバッシングが始まったのは2日後の12月11日のことだった。議会に呼び出されて事務局に行くと、議長、総務文教委員会の委員長、議会事務局長ら数人が待ち構えていた。

「フェイスブックに書いた『談合』という言葉が気に入らなかったようで、部屋に入るといきなり『なんちゅうことを書くんや!』と怒鳴られました」

その後も4人の怒りは収まらず、つるし上げは2時間近くに及んだという。勝井市議が続ける。

「追加の発注工事については、市側も議会の答弁で『疑念を持たれかねない』と非を認めているんです。それを受けてこちらは『談合にならないよう、早めに(改善の)手を打とう』と、フェイスブック上で警鐘を鳴らしただけ。談合があったなんてひと言も言っていない。なのに、そう釈明してもまったく聞いてもらえない。取調室でひたすら刑事に怒鳴られる冤罪(えんざい)被害者は、きっとこんな気分なんだろうなと思いました」

■「あんた、最後は潰されるよ?」

このつるし上げには伏線があった。議員のひとりが事前に榛原総合センターの改修工事を落札した建設業者に電話をかけ、「市議会に文句を言え」と、勝井市議への抗議をたきつけていたのだ。

「その市議が建設業者に電話を入れるところを別の複数の市議が見ています。その後、実際に建設業者は市議会に私への苦情を申し入れてきたそうです。ただ、何度も言いますが、私は談合があったなどとはひと言も言っていませんし、まして特定の建設業者の名前をフェイスブックに書き込んだりもしていません。にもかかわらず、どうしてその市議が建設業者に電話をかけて苦情を入れるようにたきつけたのか、理解に苦しみます」

バッシングは翌12日も続いた。早朝8時に市議会議長がアポなしで、勝井市議宅に押しかけてきたのだ。

議会ではひと言の発言も許されなかった

「私と両親の3人で対応したのですが、その席で議長がこう言い放ったんです。『フェイスブックに書いてあることは間違っていない。ただ、工事を落札した建設業者が怒り狂い、追加工事を辞退すると言っている。この一件で市に金銭的な損害が出たらどうするんや? オレだったら、自発的に議員を辞めるけどな』と。

でも、業者をたきつけて騒ぎを大きくしたのは議会側で、この苦情はいわば自作自演のようなもの。なぜ、そんな苦情で私が責任を問われないといけないのか? 割り切れない思いでいっぱいでした」

その後、勝井市議は要求されるまま工事業者の元に謝りに出向かざるをえなかったという。

「工事業者さんには『不快な思いをさせました』とおわびをしました。それでも相手は『世間から談合をしていると見られると困るんや』と怒っていました。帰り際、『こんなことばかりやっていたら、アンタ、最後は潰されるよ』と言われたときは本当に恐怖を感じましたね」

勝井市議への謝罪要求はさらに続き、3月11日から19日にかけて、反省文を提出させられた。

「こちらが服従のポーズを見せることで事を収めてもらえるならと、反省文を出しました。ところが、受け取った議会事務局長から『これのどこが反省しているんや!』と、また怒鳴られてしまって…。これには反論する気力もなくなり、最後は相手の言うままに反省の弁を書いて渡しました」

だが、数回にわたる反省文提出のかいもなく、勝井市議が昨年12月、そして今年の3月と、市議会から2度の辞職勧告を受けたことは冒頭に記したとおりだ。2度目の辞職勧告のシーンを勝井市議はこうふり返る。

「国交省に入札のあり方に関する質問書を提出していたんですが、2月23日に榛原総合センターの入札は『地方自治法施行令で認められないものであり、例外規定もない』という回答が返ってきたんです。

そこでこの国交省の見解に基づいて市の入札を問いただそうと、3月22日に一般質問をすると議会に通告したら、同じ日の朝一番に2度目の辞職勧告決議の動議が突然、提出された。しかも、その直後に市議たちが次々と退席したまま席に戻らず、定数不足で議会は延会になってしまった。結局、この3月議会で私は一般質問どころか、ひと言の発言も許されませんでした」

★後編⇒談合疑惑の奈良県宇陀市議会で“村八分”にされた人気若手議員は「ハラスメント常習犯」だった?

(取材・文・撮影/ボールルーム)