実際の女性向け風俗と映画の世界はどう違うのか比べたかったという、ライターの蘭姐麗氏。「女性はどうしても自らの性欲や性行為に罪悪感を感じてしまうことがある。そんな時に余計な感情抜きでセックスに没頭できるヒントをもらったような気さえします」

虚ろな日々を送る大学生が男娼となって女性たちと肌を重ねることで、人としても成長を遂げる物語――石田衣良の小説『娼年』を16年8月に劇作家で映画監督でもある三浦大輔が演出し舞台化、松坂桃李主演でチケット発売当日に完売した話題作だが、今春には同コンビで映画化、興行収入も絶好調でさらに大反響となっている。

トップ俳優である松坂が男娼のリョウ役を演じる驚きはもちろん、初っぱなのいきなり女と裸同士で絡み合うシーンでの尻のどアップからケモノのような喘ぎ声まで…その後も全編、過激な描写がスクリーンに映し出され、桃李ファンのみならず女性たちが映画館に殺到しているというワケ!

もっとも、刺激を求めるその視線は厳しいようでSNSや女性向けニュースサイトなどでのリョウの愛撫に対する評判は散々…。「あの手マンは痛い!」「男性は絶対にマネしないで~」などなど痛すぎる。

三浦監督のインタビューによれば、「性描写は一切妥協しなかったが生々しいエロティシズムを排除しポップに描き切った」…さらに「セックスの滑稽さと間抜けさを表現した」と語っているように、ツッコミどころ満載なのは演出の意図によるものらしい。

そして、映画を観た女たちの胸と体を熱くしたシーンは確実にあったようだ。女性向け風俗店、いわば実際の男娼がいる店舗に体験取材し、その実態を知るライターの蘭姐麗(らんじぇりー)氏は今作での性描写をこう評価する。

「実際のそれと比べるとかなり強引だったり無茶な展開もありましたが、性行為に至るまでの甘い台詞や、駆け引きがない剥き出しの欲望とその場限りとはいえ確かな愛も感じられるシーンは実際に近いものがありました。また、リョウのお店のオーナーが『男は女の欲望の深さに圧倒されるはず』と言うシーンで、女性にも性欲や願望があり、それが何歳で終わりということはないと訴えているところにもグッときました」

そこでまず、実際に『娼年』を鑑賞後の女たちにどんな性描写シーンで感じたかを聞いてみると…。

●名前を呼び合うふたりに…リョウの最初のお客さんである、いかにも金持ち女という印象のヒロミ(大谷麻衣)との性描写に最も濡れたというのはアパレル勤務、ゆきさん(28歳)。

「激しく重なりながら『リョウくん!』『ヒロミさん!』って名前を呼び合うシーンはとてもよかった。私、最中に名前を呼ばれるのってすごく好きで、下手な言葉攻めをされるより名前を呼ばれたほうが愛されてるって感じるし、高ぶる。名前を呼び合うってお互いをわかりあうための最も簡単にできる愛情表現だと思います」

なるほど。見つめ合う、手を握り合う、名前を呼び合う…そんな簡単な行為から始めてみようってこと!

●まさかの黄金“聖水”放水に…このシーンは詳しくは言うまい。いかにもお堅い職業で地味な出で立ちのイツキ(馬渕英里何)だが、同じくお堅い職業の塾講師・はるえさん(29歳)は彼女がリョウの目の前で自分の性癖を解き放つシーンに感じてしまったらしい。

「正直、かなり衝撃的。同性の私ですら理解に苦しむイツキの性癖を真摯に受け止めるところに感動すらしました。ごくフツーの女性がトイレでもない場所でシャーっと解き放つ瞬間を目の当たりにしたら、普通だったら一瞬でも顔がひきつるはず。それどころかリョウは優しく包み込むような表情で『イツキさん…』と言いながら抱き締める。こんな包容力のある男、なかなかいませんよ!」

セックスは男のもんだけやないんやで~ってコトか。自分を受け入れてほしければ、男も女の欲を受け入れよ!

現役AV男優、熟女女優からの評価は…

●老女と熱く手を握り合う…手を握るだけでイッてしまう老女(江波杏子)とのシーンにジュンッときてしまったのは玩具量販店で営業職をする、ゆうこさん(33歳)。

「若い頃はさぞかし美しかっただろう老女だけど、顔も手もシワシワなお婆さんに対しても、引くことなく寄り添うリョウくん。1回目では手を握るだけだったのが、2回目ではベッドイン手前まで描かれ、ちゃんと興奮してくれるんだ!とすごく安心した。女性は常に“歳をとることへの恐怖”が付きまとう。まるで歳をとることが悪いみたいな…けど、私もあんな風にゆるやかに年齢を重ねる可愛らしいお婆さんになりたいって素直に思えました」

女はいくつになっても女でいたいもの。年月を経てできたシワさえも愛してもらいたいものなんですよぉ!と。

●男同士の激しい絡みに…実は、意外にも評価が高かったのが、リョウと同じ男娼で人気No.1の東(猪塚健太)との絡みのシーン。ここに感じてしまったのはウェブデザイナーのまさみさん(29歳)。

「東が『僕も愛撫は随分と研究した。肝心なところにいく前までの工程が大事なんだ』とか言って指先を舐めて、手首から肘、肩まで舌を這わせるシーンでリョウも震えるように悶えていましたが、私も鳥肌立つくらいその気持ちよさが想像できた。

普通の男は目もくれないけど、指先は感じるんです。それに指や手の甲へのキスはかなり愛を感じます。また、リョウがイッた後、『俺にもできることはないか?』と東に言うシーンもまたいい。見返りのない愛を感じましたね」

このシーンにはAV男優の森林原人氏も賛同する。

「確かに東のリョウへの愛撫はかなりいい。指先から肩までへの丁寧な愛撫は普段そんなところを攻められたことがない女性でも感情移入しやすかったはず。また、東の愛撫の説明も僕がいつも言っている“遠くから近く、弱から強の法則”そのものでしたので、お手本にしていいと思います。ゲイやレズの性描写や愛撫は無意識レベルで共感性が高いため、男女のセックスにも参考になるエッセンスが多いんです」

では、AV男優として観ると、この愛撫は“ダメ絶対!”と思うシーンは?

「特にヒドいのは、やはり手マン。『あれはない!』とツッコミたくなる汁男優以下でした。手マンのコツは指先だけで刺激するのではなく、指全体を使って面で攻めるもの。それにクンニとセットで行なうべきなので、あのように指だけでグチャグチャとかき混ぜたりはしません。あくまで監督が意図する“滑稽さを強調した性描写”だと一歩引いて楽しんでほしいですね」

これには、熟女女優の華月さくらも大きく頷く。

「潮吹きのシーンもありましたが、あれでまた一般の人が潮を吹かせようと真似したら女性はダメージが大きそう。男性の皆さんにはこの映画から性のテクというより女性のあふれる性欲を必死に受け止めるリョウのその姿勢を見習ってほしいですね」

付き合いたてのカップルには刺激が強すぎるかもしれないが、マンネリカップルにはいい刺激となりそうな『娼年』。人のセックス見て、我がフリ直すのにもいい機会かもしれない。女性だけに感じさせている場合じゃないですぞ!

(取材・文/河合桃子)