厚生労働省が平成28年に発表した資料より。特にそれまで減少傾向にあった“ぜんそく”が平成20年あたりから急上昇。“アレルギー性鼻炎”は平成14年頃からずっと右肩上がりなのがわかる

花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎…今や国民病! ふたりにひとりがなんらかのアレルギー疾患を抱えている。

そこで、季節を問わず発症する、現代病の代表格「アレルギー」に迫る!

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「今や日本人のふたりにひとりがなんらかのアレルギー疾患を持っているといわれています。患者数は、第2次世界大戦後ずっと増加傾向にありますが、特にここ数十年で増えたといってもいいでしょう」

そう話すのは、公益財団法人日本アレルギー協会理事長の宮本昭正先生。確かに、厚生労働省が発表したグラフを見ても、なんらかのアレルギー疾患を持つ人が増加し続けているのがわかる。

では、どうして急にアレルギーになってしまうのか。そもそもアレルギーとは? 宮本先生が続ける。

「私たちの体には、“免疫”という仕組みが備わっています。これはウイルスや細菌などの異物が入ってきたときに、体内に“抗体”を作り、これらの外敵を退治しようとする仕組みです。

しかし、この免疫が食べ物や花粉など、私たちの体に害を与えない物質まで『これは有害だ』と判断し、過剰に反応してしまいます。その結果、私たちにとってマイナスの症状を引き起こしてしまう。それがアレルギーです」

アレルギーの原因となる物質は“アレルゲン(抗原)”と呼ばれる。その代表的なものが花粉、ダニ、ハウスダスト、食物、薬物などだ。

「アレルゲンが体内に入ると、これを退治しようと“IgE(アイジーイー)抗体”というタンパク質が作り出されます。このIgE抗体は、皮膚や粘膜に多くある“マスト細胞”の表面に、まるでアンテナのように張りめぐらされます。

そして再びアレルゲンが侵入し、このIgE抗体に引っかかり結合すると、マスト細胞の中のヒスタミンなどの化学物質が一気に放出されます。そして、鼻水やかゆみなどの症状が現れるわけです」(宮本先生)

ひと口にアレルギーといってもそのタイプは「Ⅰ型からⅣ型まで」に分類される。アレルゲンが体内に入った直後から数時間以内の短い時間で症状が出るアレルギー反応は、「Ⅰ型」(=即時型)というタイプ。

その代表は花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支ぜんそくなど、一般的によく耳にするアレルギー疾患は、ほとんどがここに属する。また最近問題となっている食物アレルギーも主に、この即時型に分類される。

数週間後にアレルギー反応が出る「遅延型」も

「なかでも“アナフィラキシー”は発症後、極めて短い時間で全身にアレルギー症状が出る反応のことをいいます。アレルゲンを食べたり、飲んだり、吸い込んだりすることで、皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、循環器などの複数箇所にアレルギー症状が出ます。

これによって、血圧の低下や意識障害などを引き起こし、場合によっては命に関わる危険な状態になることも。このような危険な状態を“アナフィラキシーショック”といいます」(宮本先生)

厚労省の人口動態統計の集計によれば、日本でのアナフィラキシーショックによる死亡者数は2013年現在で768人にも上る(2001年からの合計)。つまり、アレルギー疾患は放っておくと死に至ることもある怖い病気なのだ。

さらに最近では「遅延型」の「Ⅳ型」にも注目が集まっているという。

「これは即時型のⅠ型と違い、アレルゲンが体内に入って数時間から数週間後にアレルギー反応が出ます。症状は頭痛やめまい、倦怠(けんたい)感など。ですから、例えば遅延型の食物アレルギーの場合、アレルゲンとなる食物を食べた数日後になんとなく体がだるいなどのアレルギー反応が出るわけです。これをアレルギーだと自覚するのはなかなか困難です」(宮本先生)

最近ではコンディションをベストに保つため、遅延型アレルギーの検査を受ける芸能人やアスリートも少なくない。例えば検査で遅延型の“グルテン(小麦などに含まれるタンパク質)アレルギー”であることが発覚し、グルテン抜きの生活をスタートしたら、体重の減少ややる気の向上など様々な効果があったという。もし、原因不明の体調不良がずっと続いているなら、この遅延型アレルギーが原因の可能性もある。

★後編⇒日本アレルギー協会理事長に聞く「アレルギー疾患」を持つ人が増えている理由

(取材・文/井出尚志[リーゼント] 鈴木晴美)