「心配なのはこうした公文書問題が『安倍政権打倒』や『悪い官僚を懲らしめる』ための材料と化していること」と語る古賀茂明氏

公文書をめぐる不祥事が相次いでいる。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、公文書をめぐる危機的状況を解決するための提案をする。

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財務省による決裁文書改竄(かいざん)、防衛省による自衛隊日報の隠蔽など公文書管理をめぐる不祥事が続いている。だが、これらは氷山の一角。同じようなずさんな公文書管理は政府、行政の至る所で起きている。

例えば、福島第一原発事故による放射能汚染が今も続いていることが、政府ぐるみで隠されていたのをご存じだろうか。

2013年秋に福島県南相馬市の19ヵ所の水田で収穫されたコメから、基準値(1kg当たり100Bq)ベクレルを超えるセシウムが検出されるという騒ぎがあった。

このとき、汚染の原因として浮上したのが福島第一原発3号機のがれき撤去作業だった。がれきを運び出す際に、粉塵(ふんじん)と共に大気中に飛散した放射性物質が20km以上離れた南相馬市の水田に降り注ぎ、稲穂を汚染したことが、学者などの調査で後に明らかとなった。

しかし、当時の政府の結論は「コメ汚染に関連はない」というもの。政府内では、経産省や田中俊一原子力規制委員会委員長(当時)ががれき撤去犯人説を強く否定し、それ以上の原因究明もないまま、コメ汚染騒ぎはうやむやにされてしまったのである。

政府は極秘検討会議を開いたが、朝日新聞などが議事録の公開を請求すると、返ってきた回答は、なんと「議事録はない」というものだった。

疑惑が浮上した13年当時、すでに東電は1号機の燃料取り出しを当初の予定から2年遅らせる案を示していた。しかしこれ以上、廃炉スケジュールが遅れれば、安倍政権が最優先課題とする帰還困難区域への住民帰還が遅れる。

がれき撤去作業とコメ汚染は関係ないとする結論を政府が早々に出した背景には、住民帰還の遅れをいやがる国や県への忖度(そんたく)があったのではないか。だが、そう疑ってみても、議事録なしでは検証できない。規制委も経産省も、財務省や防衛省と同じくずさんな公文書管理で重要な情報を隠蔽しているのだ。

公文書をずさんに扱えば、犯罪になるという意識を

今、政府の隠蔽体質への批判が高まっているが、心配なのはこうした公文書問題が「安倍政権打倒」や「悪い官僚を懲らしめる」ための材料と化していることだ。

確かに、ずさんな公文書管理を許してきた政治家や、改竄・隠蔽に手を染めた官僚は厳しい批判と処分を受けなくてはならない。とはいえ、公文書問題は首相が退陣したり、次官が更迭されたりすれば、それで一件落着というものではない。

公文書は政策決定の妥当性をチェックするなど、民主主義に欠かせない国民の共有財産だ。しかし現状、公文書は政治家や官僚のものであり、国民に知られるとまずい記録は出さなくても済むという形になっている。

こうした危機的状況を変えるには、公文書管理法と情報公開法をセットで改正すべきだ。文書だけでなく、メールや音声データなどもすべて保存を義務づけ、廃棄前には必ず公開する。

また、改竄や文書開示拒否をできないよう、これまでになかった刑事罰も新設すべきだろう。公文書をずさんに扱えば、犯罪になるという意識を行政に与えるのである。官僚の抵抗を封じるため、法案作成はマスコミやNPOなどの第三者が担当するなどの工夫も必要かもしれない。

大荒れが続く国会だが、公文書管理法改正案だけはしっかり仕上げてほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中