北海道上士幌町での自動運転バスの実証実験。地方のモビリティを確保することを目的にこうした実験が各地で行なわれている。

前回記事(「技術と人間のジレンマ」「技術が進歩するほどシステムに依存する」)では、主にアメリカで3月に起きた自動運転中の2件の死亡事故を検証し、技術が向上すると人間がシステムを過信してしまうジレンマについて触れた。

では、実用化に向けた法整備の現状、そしてニーズはどこにあるのか。前編に続き、今回はより現実的な目で社会における自動運転のあり方に踏み込んでいく!

■「カオス」のような状態がしばらく続く

筆者は今回の特集の取材をしていくなかで、ある30代男性のこんな声を聞いた。

「僕、運転免許を持ってないんですけど、東京オリンピックまでに自動運転車が実用化されるなら、わざわざ免許を取る必要ないですよね?」

しかし取材を終えた今、「安全な完全自動運転車」を実現するための技術と法的な課題が解決し、それが近い将来に「現実的な価格」で販売されるのは、まだまだ先のことのように思う。

また、自動運転車のニーズについても、ラストワンマイルを補うものとして期待する地方がある一方で、橋や道路といった基本的なインフラの維持にすら苦しんでいる地方自治体を救う解決策が、本当に「高価な最新技術」に依存する自動運転技術なのか…?という議論もあるだろう。

だが政府は、自動運転開発の国際競争をリードしようと、イノベーション優先の積極姿勢を貫いている。今年4月に、内閣官房IT総合戦略室が策定した「自動運転に係る制度整備大綱」によれば、「高速道路での自動運転」(レベル3)と「限定地域での無人自動運転移動サービス」(レベル4)を2020年に実現するべく、関連する法整備などを急ピッチで進める方針だ。

「この先、レベル3や4の自動運転車が実用化されれば、当然、これまでのクルマ社会では予想もしなかった出来事が起きるはずで、しばらくは『カオス』のような状態が続くと私は見ています。ウーバーの事故に対する世間の反応を見ていても感じるのですが、メディアを含めてわれわれはそうした事故が起きても、冷静に受け止めるべきでしょう。

大切なのは、その先にこういう社会が待っているんだという具体的なビジョンをしっかりと描くことです。その主役はわれわれなのですから」(前出・清水氏)

今回の特集の取材で見えてきたいくつもの課題にどう取り組み、社会がどうやって自動運転と向き合っていくのか。今後は技術面だけでなく、法整備を含めた文系面でも幅広い議論が必要なことは間違いない。

(取材・文/川喜田 研 取材協力/平岡敏洋[名古屋大学] 写真/時事通信社)