10代でデビューした選手たちの才能を語る宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第46回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、10代でJデビューした選手たち。W杯のメンバー発表で若手10代の招集も取り沙汰される中、過去に10代で華々しくデビューして飛躍していった選手たちの活躍を振り返る。

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今シーズン、久保建英ら10代選手がJリーグでプレーして活躍し、W杯メンバー入りが期待される若手も何人かいるけれど、過去を振り返ると「10代にしてこいつはモノが違う」と思わされた選手が何人かいる。

その代表格は小野伸二だ。伸二が浦和に入団した最初の年は、プレシーズンマッチだというのに当時、浦和の本拠地だった駒場サッカー場は超満員。すごかったね。浦和に所属していたチキ・ベギリスタイン(元スペイン代表、現マンチェスター・シティ強化部門責任者)が試合後に「スペインにもなかなかいない10代だ」と絶賛していたよ。

右足のアウトサイドでボールを止めて、そのままアウトサイドでスルーパスを出したり、スライス回転をかけたパスを出したり…。特にロングパスのコントロールは抜群で、右足でも左足でも同じように精度の高いパスが出せる。

走るスピードが特別速いわけじゃないけれど、伸二がプレーするのを見ているだけで楽しかった。当時の彼なら、バルセロナでもプレーできたかもしれないよね。

今でも、オランダリーグのフェイエノールト時代に決めたループシュートを映像で見ることがあるんだけど、うますぎてヤバイ。だけど、高校時代から小野伸二のプレーを見ていた者としては、そのシュートも普通に思える。そのくらいスゴイし、あんなにうまい選手は後にも先にも、もう出てこないんじゃないかと思うほどだ。

小倉隆史のデビューもセンセーショナルだったね。四日市中央工高を卒業して名古屋に入ってきたのが1992年。Jリーグ開幕前年、オグがオランダに留学する前にナビスコカップの千葉対名古屋で対戦した。

当時のジェフのDF陣は私と影山雅永(現U-18日本代表監督)と阪倉裕二(現長野パルセイロ・コーチ)だったんだけど、阪倉は四中工高出身で小倉の6歳上で、日本代表にも選ばれるレベルにあった。

だけど、試合でマッチアップした阪倉が何度も振り回されるし、体を張って相手を潰すプレーが持ち味だった彼を、重心の低い体型のオグが跳ね返していく。

試合中に阪倉は「ヤバイ、ヤバイ」って言い続けていたね。高校の先輩を振り回す小倉のプレーを見ながら、高校選手権であれだけの活躍をしたのはわかる!と納得していたのを覚えているよ。

小倉に振り回されて「ヤバイ、ヤバイ」って言い続けていた

市川大祐も17歳でJリーグにデビューした選手だった。当時は「スケールの大きなサイドバックが登場した」と大注目だったね。98年フランスW杯の時は、直前合宿で岡田武史監督が戦い方を変えたことで最終的にカズ(三浦知良)と北澤豪と一緒にメンバーから外れ、市川が残ったけど、走り方もコンパスが長くて、イタリア代表のマルディーニみたいなサイドバックになるんじゃないかと楽しみだった。

でも、彼は1999年にオーバートレーニング症候群を発症してしまったのが残念だった。その結果、2002年日韓W杯には出場したものの、99年ワールドユース(U-20W杯)と00年シドニーオリンピックを棒に振ってしまうことになった。

小野や小倉も五輪予選で大ケガを負ってプレーできない時期があったけれど、あのケガがなければ…と、どうしても思ってしまうよ。

現在、Jリーグでプレーしている10代選手は多いけれど、小野や小倉や市川、そして稲本潤一中村俊輔本田圭佑らが10代の頃に与えたインパクトを残せている選手はいない。

ただ、10代だったらすぐにでもデビューをと闇雲に起用するのではなく、もっと大切に時間をかけて育ててもらいたいと思う。そして20歳前後くらいから華々しくデビューするという、日本的な育成方法があってもいいんじゃないかと考えているよ。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。