小川アナの葛藤や不安は想像に難くありません。

テレビ朝日の小川彩佳アナウンサーが、MCを務める『報道ステーション』内で福田淳一・前財務事務次官のセクハラ報道を受け、社会からセクハラがなくなることへの強い期待を語った―。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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テレビのニュースキャスターは、画面で見るよりも自由度の低い役回りです。放送を見ていて、まるでセリフが決められているみたいと思うことも多いのでは。実際、予定にない発言をするのはかなりの技が必要です。放送時間内に収めるには長々とコメントするわけにはいかないし、議論が長引くと困るからです。

放送局の発表係であるアナウンサーと、ニュースの「キャスター」は、本来は役回りが違います。キャスターはただ原稿を読み上げていればいい仕事ではありません。アナウンサーであっても、キャスター席に座るなら主体的にニュースを伝える意識があってしかるべきです。ところがそれをやると、局アナのくせに生意気だと言われたりする。若い女性ならなおさらです。

そんななかで、テレビ朝日『報道ステーション』の小川彩佳アナの発言はさえています。福田淳一・前財務事務次官によるテレビ朝日の女性記者へのセクハラに関する報道では、テレビ朝日の一員として、会社にはきちんとした対応をしてほしいと思うと意見を述べました。セクハラを許さないという小川さんの強い意志を感じます。表情も口調も、決められたコメントを言っているのとは違う切実さがありますし、心から視聴者に訴えたいと思っているのがわかりました。

そんなのはキャスターとして当然と思うかもしれませんが、33歳の女性局アナがそれをやるのには相当な勇気が必要です。番組の意思決定権を持つのはたいてい年次が上の男性たちです。女子アナはニコニコしていればいいんだとかいう人もいる中で、一人称で自分の思いを伝えるのはとても勇気のいることなのです。

たとえ会社員ではないフリーの立場であっても、女性がキャスターの座に就くと、局は番組の意図を逸脱しないようしゃべることを求めるのが常。言われたとおりにやれという圧力を感じることもあるはずです。よほどの大物ジャーナリストでもない限り、キャスターはあくまでもニュースっぽい絵面を作る役割にすぎず、ジャーナリスティックな視点はいらない、とすら考える制作者もいるのです。

そうした日本のキャスター事情を考えれば、ひるむことなく繰り返し「男女が互いを対等に扱う社会にしよう」と思いを述べる小川アナの葛藤や不安は想像に難くありません。サラリーマンの処世術よりも、本当に伝えるべきことを言おうと決断した彼女は、ジャーナリズムがなんであるかを真剣に考えている本当の意味でのキャスターです。

彼女はニュースキャスターを目指す女性アナウンサーのロールモデルになるでしょうし、若い女性たちに「自分も恐れずに意見を言っていいんだ」と勇気を与える存在です。頑張れ、小川さん。私は心からあなたを支持します。

●小島慶子(こじま・けいこ) タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など。