今年2月にVWが、新開発のディーゼルモデルを日本国内に初投入。その導入第1弾モデルとなったのがVWの上級モデルに位置するパサートだ

燃料電池車普及のための新会社が日本に誕生。一方、ディーゼルはトヨタ、日産が欧州撤退。そして「北京モーターショー」ではEVシフトがさらに加速。

マジで次世代エンジン大本命はEVなのか? ということで、自動車ジャーナリストの小沢コージが濃厚取材で本命を探ってきた!

* * *

電動コケシじゃあるまいし、世の中全部が静かでスムーズな電気自動車(EV)になるだとぉ! 基本燃えたぎるエンジンが大好きで自動車ジャーナリストをやっている小沢。最近、マスコミで話題の「EVシフト」なんぞは最初から疑ってかかっていた。あんなのしょせんはEVビジネスで世界を支配したい中国メーカーやら、エコに表向き意欲的な北米市場のエゴにすぎない。そのうちバケの皮も剥(は)がれるはずだと。

ところが最近ますますEVシフトへの追い風が! まずは衝撃の日系メーカー連続ディーゼル撤退報道だ。もともと欧州マーケットはハイパワーで低燃費なディーゼルエンジンの人気が高く、日系メーカーも一定数ディーゼル車を投入。ホンダの人気SUV、CR-Vも昨年販売した約2万台のうち15%をディーゼルが占めていた。

ところが昨年、そのホンダが英工場産CR-Vのディーゼル仕様を廃止すると発表し、トヨタも今年3月に、欧州で発表する新型車にディーゼルの設定をなくすと発表(商用車を除く)。決定的なのが日本きってのEV急進派である日産が5月7日、2021年以降に欧州で投入する新型車からディーゼルを設定しないと発表。

この“脱ディーゼル”の動きはイタリア&北米連合のFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)も同様。セルジオ・マルキオーネCEOも脱ディーゼルをにおわせているし、そもそも18年1~3月の欧州ディーゼル販売率は前年より17%も減っているのだ!

また、2月にはドイツの連邦行政裁判所が、排出するNOX(窒素酸化物)を理由にディーゼル車の市街地乗り入れ規制を決定。これに、フランスのパリ、スペインのマドリードなども追従しそうだ。こうした露骨な脱ディーゼルでEVシフトがより本格化しそうだが、物事はそう単純ではないのだ。

というのも超不思議なのが、15年末のディーゼルゲート事件で脱ディーゼルのきっかけをつくり、その後、自らEVシフト界最大のリーダーと目されるまでになったのがドイツのVW(フォルクスワーゲン)の動向だ。

16年パリショーでは他社に先駆けて次世代EVコンセプトの「I.D.」を発表して「発売は2020年」と言い切った上、その後も「2025年にはEVを50車種発売する」と公言! 小沢は本気でVWが脱ディーゼル&EVシフトを進めると思い込んでいた。

「これからもVWはディーゼル開発はやめない」

しかしVWは、今年2月、わが日本にクリーンディーゼルを搭載したパサートTDIを初導入したのだ! それも一番問題となるNOXの除去のために「NOX吸蔵触媒」と「SCR(選択触媒還元)触媒」のダブルで対応!

加えて小沢も聞いたことがない、一度燃やした排ガスを2系統でもう一度燃焼室に入れる「デュアルサーキットEGR(排出ガス還流装置)」まで採用。要するにコンドームを3枚重ねて使うような念入りな装置なわけさ。

そこで小沢はパサートTDI発表時に来日したVWの先進ディーゼル・エンジン開発部長のエッケハルト・ポット博士に、そこまでしてなぜディーゼルを導入したいのか聞いてみた。すると博士は真顔で「これからもVWはディーゼル開発はやめない。それどころか重要な存在として開発し続ける」と明言。

小沢は一瞬、「なんだよ、おい! 話が全然違うじゃん!」と思うと同時に、コレこそが欧米人特有の二枚舌作戦に違いないと確信した。彼らはプレゼンではマジできれい事を並べる。しかし、ヘベレケに酔っぱらうと、時々信じられないリアルガチすぎる本音をしゃべるのだ。

実際問題、よくよく調べてみたら、欧州で確かにディーゼル車の比率は減っているが、エッケハルト・ポット博士いわく、「今もドイツを走る車の45%がディーゼル車」だし、そもそも市街地乗り入れ規制も基本は古くて排ガスの多い車に対してのみなのだ。

何よりEVはハイスピードで走るとイッキに航続距離が落ちてしまう。モード燃費では500km走れるEVも、時速200キロで走ればすぐ300km程度になる。今も平気でアウトバーンをぶっ飛ばす愛すべき大バカのドイツ人に心底愛されるわけがない。結局、彼らがパワーと燃費を両立するクリーンディーゼルを手放すのは無理な話なのだ。だからこそ新型パサートTDIの排ガス対策はガチなのだ。

そして日本になぜクリーンディーゼルを入れたがるのか? それは単純に売れるからだ。特に6年前、いち早くクリーンディーゼルを本格的に導入したBMWは業績絶好調! 現在、ディーゼル比率は全体で4割、一部SUVで8割以上というからハンパない。この数字はライバル社としては無視できないはず。

実際、小沢もパサートTDIに乗ってみたけど、2リットル直4ディーゼルターボはパワフルで超滑らかな上、高速実燃費も18km/リットル台とハンパない。よって今後VWは基幹車種のゴルフやSUV系にもTDIを投入予定で、ディーゼルの命は全然終わってない。ディーゼル投入しなきゃ食ってけないし、ジリ貧だもん。

★『週刊プレイボーイ』23号(5月21日発売)では、“EV祭り”だった「北京モーターショー」を小沢が取材。さらに日本で新会社が設立されたFCV(燃料電池車)、EVの問題点や普及の現状など、次世代エンジンの大本命を濃厚取材で探る!

4月25日から5月4日まで中国にて開催された「北京モーターショー」を現地でねっちょ~り取材してきた小沢。確かに“EV祭り”と化していたが……

(取材・文・撮影/小沢コージ)