ガーナ戦を振り返って日本代表の課題を指摘した宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第49回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、ついに決まったW杯に出場する日本代表メンバー23人と、そのフォーメーションについて。ガーナ戦では0-2と敗戦してしまったが、本番に向けてチームはどこを修正していくべきなのか? スタメンはどうなるのか? 戦術や選手の起用方法などを分析してもらった。

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日本代表の最終メンバー23人については、予想通りストレートにきたなという印象だ。ガンバ大阪を指揮していた時もそうだったけれど、西野さんはうまい選手、平均点の高い選手を集めて、うまくプレーさせることに長(た)けている監督だ。

気になるのはこのメンバーでは「スピード」「高さ」で抜きんでたアタッカーがいないこと。その部分で、W杯でインパクトを与えてくれる選手がいない。もちろん日本には2m前後の選手はいないわけだから、高さで勝負するのは難しいと思う。でも、スピードは万国共通だから、やっぱり速さというカードを1枚持っておきたかった。ロンドン五輪の永井謙佑、リオ五輪の浅野拓磨がどれだけ相手に脅威を与えて崩したか。その役割ができそうなのは武藤嘉紀だよね。ただ、武藤のスピードは浅野ほどじゃない。この速さはずるいなという選手がひとりほしかったかな。

西野監督は選手たちの力をどうやって最大限発揮させるかを考えて、このメンバーで前向きに力を出すことを考えているはずだ。そのためにも経験値があって計算できる選手、ポリバレントな選手を選んだということだろう。

その初陣となったガーナ戦は、3バックという新しい布陣で戦った。3バックの採用については、私自身はポジティブに捉えているよ。もちろんリスクもあるけれど、今まで通りにやっていても、W杯で格上には勝てないからね。勝負に出たな、という印象はある。

どうやって勝つかを考え抜いて、策を練らなくてはいけないということで考え出したのが3―4―2―1なのだと思う。中盤でより多くの人数をかけられて、攻撃に厚みを出して、なおかつ守備の時にも人数をかけてしっかりスペースを消して、両サイドを守る。その狙いがよくわかる試合だった。

ただ、ガーナ戦のようなミスでやられてしまうのはマズイ。試合の映像を何回か見直したけど、2失点目のPKをとられたシーンは、CB出身の私としては長谷部誠というよりもGK川島永嗣の判断ミスがあったと思っている。もちろん、ああいう危険なボールを入れさせるなということもある。中盤でもっとボールに寄せていってパスを規制しないといけない。

いいボールがDFの後ろに入ってしまった時に味方も敵もきているあの状況では、長谷部が体をぶつけてブロックにいっていたから、川島はゴール前にいたほうがよかったかもしれないね。そうしたコミュニケーションをとって守備の連係がスムーズになってほしいし、一方で、あの場面では長谷部がケガをしなくて本当によかったよ。

GKはあそこでボールを落としてはいけない。雨でグラウンドが滑る状態だったから余計にね。DFのセオリーでは、GKがボールを落とさないこと、体を入れること、GKとDFの連係、この3つのうち、体を入れることはできていたけど、残りのふたつが不完全だった。もったいない失点だったよ。

1失点目のFKもGKが取るか、弾けないかなと思った。壁の位置で多少ボールが見づらかったとは思うけれど、あれを弾けないとコンディションを不安視されかねない。ああいうシュートをストップしてチームを救ってくれる川島であってほしいよね。

3バックの守りは機能していたと思う

全体として、3バックの守りは機能していたと思う。サイドでもしっかり守って、本田圭佑と宇佐美貴史も防波堤になっていた。ワントップの真ん中に大迫勇也がいて、本田の後ろには原口元気。宇佐美の後ろに長友佑都。この守備の位置関係のバランスはとれていた。

あとは長友と原口がどこまで高い位置をキープしてディフェンスできるかが課題だよね。本田と宇佐美の位置を見て、長友と原口がどの高さまでプレスに行くのか。3バックの横のスペースを空けてでも前から守備に行くのか、5バックにしてサイドのスペースを消すのか。対戦相手とのそこの駆け引きがポイントで、詰めていくべき部分だ。

本田と宇佐美はサイドを切ってコンパクトに、より前でボールを奪うのか、それとも5バックにして後ろでコンパクトさを作るのか。フィールドのどこでコンパクトにして相手に時間とスペースを与えないようにするかを全員が共有しなくてはいけない。

例えば、W杯初戦でコロンビアが立ち上がりから一気に勝負にきた時にどこまで踏ん張れるか。バッカとかハメス・ロドリゲスとかファルカオ、グアドラードもとにかく速い。セネガルであれば、リバプールのマネのような強烈なFWが来た時にどうなるか。

ベースが3-4-2-1であれば、4の右が原口、左が長友で守備を安定させたいなら、4の右サイドには酒井宏樹でもいいよね。状況によって、本田ではなく原口が3-4-2-1の2のシャドーも考えられるし、ツーシャドーのもうひとりは宇佐美ではなく香川真司という選択肢もある。でもプレスはかけなきゃならないから、ガーナ戦のメンバーが基本になるんじゃないかな。

ガーナ戦では、守備から攻撃の切り替えでいい場面もあった。グッと中を締めて、相手の縦パスを大島僚太と山口蛍でインターセプトしてチャンスになっていたから、ああいう守備ができるといいよね。ただ、注意しないとボランチの背後のスペースが空いてくるから、3バックとの距離感が重要になる。

あの試合での収穫は3バックで落ち着いてできたことだろう。もう少し守備の受け渡しがゴチャゴチャするかなと思っていたけれど、思っていたよりもサイドのディフェンスはできていた。

ここから初戦のコロンビア戦まで、あと2試合。6月8日のスイス戦、12日のパラグアイ戦で3バックをもっとうまく機能させるように継続するのか、あるいは4バックも試すのか。そこに注目しているよ。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。