福音派の復活はレーガン政権からと語るモーリー氏

どう見てもメチャクチャなのに、最近の支持率はむしろ回復傾向。トランプ大統領を支える全米最大の宗教勢力は、なぜ米大使館の移転に喝采を送ったのか?

前編記事に続き、『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る!

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そこから福音派が息を吹き返し始めたのは、70年代末のこと。アメリカ全体で治安が悪化し、離婚率も上昇し、家庭崩壊がひとつの社会問題になっていた時期です。こうした現状に不安を抱く白人層、特に若い世代に対し、福音派の一部指導者らは出版物やケーブルテレビを駆使して、極端な右派思想と信仰心を合体させたイデオロギーを着実に浸透させていきました(ハルマゲドンをSF風に描いた本の大ヒットもありました)。

共和党がそれに便乗し、80年に生まれたのがレーガン政権です。レーガンは60年代、カリフォルニア州知事として、当時最も先進的な人工妊娠中絶を認める州法を通した当人ですが、大統領選ではまるで別人のように福音派にすり寄り、勝利したのです。

僕は80年代の大半を大学生としてアメリカで過ごしましたが、当時は自由な社会の機運の副作用でドラッグが蔓延(まんえん)し、ボロボロになる人、自殺する人もいました。そんな各大学のキャンパスや高校などで、福音派は草の根的な布教活動を活発化。そこで陰謀論的な世界観、あるいは終末論にガチッとはまった人々が、今は40代から50代です。おそらくトランプを熱烈に支持しているでしょう。

その後、アメリカはシリコンバレーに代表されるエリートリベラル層と、そこから経済的に取り残されたキリスト教保守層に分断されていきます。その発端は、皮肉にも福音派が選んだレーガン政権による新自由主義とグローバリズムだったわけですが...。

近年、共和党主流派はヒスパニック票の獲得に色気を見せていましたが、トランプはそれに真っ向から異を唱え、福音派を再び大票田として掘り起こして当選した大統領です。大使館のエルサレム移転はその象徴ですが、他にも人工妊娠中絶の違憲化を掲げる最高裁判事の選出など、福音派にウインクするような言動がしばしば見られます。

もっとも、実際のところトランプには信仰心などありません(福音派の人々も薄々感じていると思います)。彼の頭の中は目の前のロシア疑惑から逃れることと、今秋の中間選挙を乗り切ることだけ。そんな大統領の場当たり的な施策による"負の遺産"は、どこまで膨れ上がってしまうのでしょうか。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。

■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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