トヨタ自動車チーフエンジニア・秋山晃氏(左)と、クラウンが若返ったと聞いて、自らも若さをアピールするべく、半ズボンで試乗会に参加したオザワ

「いつかはクラウン」がフルモデルチェンジ。静岡県伊豆にあるサイクルスポーツセンターで、自動車ジャーナリストの小沢コージが濃厚取材した!

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永遠のオヤジ車! 走る紅白歌合戦であり、走る北島三郎が驚異の大変身だ! それは15代目クラウン。6月26日のフルモデルチェンジで63年目を迎える国産車の超ビッグネームだ。

同一車名のまま途切れない高級車として、1955年生まれのクラウンは世界最長。ベンツSクラスは72年誕生だし、BMW7シリーズも77年誕生。逆に言うと、それだけ古くさいクルマである。

しかし、現行14代目の販売累計はロイヤル、アスリート、マジェスタの全シリーズを合わせて約33万台。確かにスゴい数なのだが、それでも約100万台売れたバブル期や、ゼロクラウンと呼ばれて大変身し、60万台も売った12代目と比べると半減......。

何より直接のライバルであるBMW3シリーズ、ベンツCクラス、アウディA4などが軽く世界累計販売1000万台オーバーなのに対し、最古参のクラウンは今年4月末で累計543万台。

これはクラウンが事実上の国内専用車なのに対し、ドイツの3強が北米をはじめグローバルで売っている差であろう。ぶっちゃけ、ニッポンの軟式野球チームが世界の硬式野球チームと勝負しているようなもんなのだ。

加えて、14代目の平均購入年齢も66歳と高齢化は止まらず、さすがのクラウンも危機感ありまくり。開発陣はトヨタの役員から、「15代目で終わった徳川の将軍・慶喜のようになるなよ」とハッパをかけられたとか。延命か? それとも革新か? クラウンは15代目でどう変わったのか?

今月8日に行なわれたプロトタイプ試乗会で秋山晃(あきら)チーフエンジニアを直撃した!

■キーワードは「世界と戦える」

―ウワサでは事前予約が4万台らしいじゃないですか。

秋山 まだ詳細は言えませんが、僕の感覚としてはほぼ狙いどおり。それより正式発表後にどれだけ他社ブランドに乗っているお客さまにご来店いただけるか。そこが勝負です。

―でも、今どき30万台以上売れる国産高級車ってスゴいと思いますけどね。

秋山 ただ、現状のクラウンの保有台数は減っているし、販売台数も半減している。そして平均年齢も70歳近くなっています。われわれは崖っぷちだと思っています。新しいお客さまを獲得しないと、クラウンに先はない。実際15代目ですし......徳川慶喜になっちゃいかんなと(笑)。

―ズバリ聞きますが、今回、クラウンが目指したのは延命と復活のどっちですか。

秋山 新しい歴史をつくります。「15代目のチーフエンジニアをやれ!」と会社から言われたときにスゴく悩んで、正月に伊豆の貸別荘にこもってスケッチ描いたりして。

―そんなことまでした!

秋山 実はクラウンの開発には、14代目から関わっていた。先代モデルはけっこうチャレンジしたつもりだったんですよ。デザインを大胆に変えて、ボディカラーもピンクを出して、お客さまの若返りを期待した。でも、逆に購入平均年齢が5歳ぐらい上がってしまいまして(笑)。

―ショック! あの稲妻グリルは若い人に受けない?

秋山 ロイヤルサルーンのお客さまがアスリートに流れてしまい、今まで以上に年を取りましたね。ものすごくショックで......アレだけ変えた後に15代目で何をやればいいのかと。

―悩み抜いた結果は?

秋山 15代目酒井田柿右衛門さんに会いに行きました。有田焼の人間国宝でちょうど15代目になられたばかりで。

―クラウン開発者が有田焼の人間国宝に会いに行った!

秋山 そこでわかったのは守るべき伝統はカタチではなく精神だということ。技術は周囲の職人たちがしっかり受け継いでいるので、自分は自分の色を出すことだけに集中しようと。

―放っといてもクラウンらしさというのは、ある程度は出るはずだと。

秋山 そうです。だから、新型クラウンのターゲットは40代から50代。ちょうど僕ぐらいの年齢だし、僕が本当に欲しくなるようなクラウンを造ればいいんだなと。

―そこで生まれたキーワードが"世界で戦える"。

秋山 創業者の豊田喜一郎さんの思いでもある。日本人の腕と頭で世界をもう一度驚かせるクルマを造らないと、次の世代がクラウンを買ってくれませんから。

―今回のクラウンの骨格は新世代プラットフォーム「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を採用してますね?

秋山 クラウンで採用したTNGAは足し算開発をしていて、プリウス、カローラで造ったCセグメント用TNGA、カムリで造ったDセグメント用TNGA、それぞれで培ったエキスがちゃんと入っています。今回のクラウンの造り込みも難しいプレス技術を導入するなどいろんなものにチャレンジできました。

★ニュルで鍛えたクラウンの実力は? 国産車・輸入車のライバルは? 記事の全文は『週刊プレイボーイ』27号(6月18日発売)にてお読みいただけます!

●6月26日デビュー予定、15代目クラウン
1955年に登場した日本が誇る高級車。あくまでプロトタイプのスペックだが、エンジンは直4の2リットルターボと直4の2.5リットルハイブリッド、そしてV6の3.5リットルマルチステージハイブリッドの予定。3サイズは全長4910mm×全幅1800mm×全高1455mm。コネクティッドカー(つながる車)のサービスも本格的に始めるという