ついにつかんだル・マンでの栄光。1985年の初参戦以来、2位を4回。2年前はラスト5分で初勝利を逃し「あと一歩」が本当に遠かった通算20回目の挑戦で悲願の「ル・マン制覇」を成し遂げたトヨタ。

昨年の覇者ポルシェがLMP1-H(ハイブリッド)クラスから撤退し、事実上「ライバル不在」だったとはいえ、1分先に何が起きるかわからないのがこのレース。週プレ本誌26号のプレビュー記事でも、必ずしもトヨタ楽勝とは言い切れないと指摘していた。

しかし! いざ、ふたを開けてみれば、結果はトヨタの完璧なワンツーフィニッシュ! 優勝した8号車(S・ブエミ、中嶋一貴[なかじま・かずき]、F・アロンソ)が3位入賞のノンハイブリッド車、レベリオンに対して12周の大差をつける文字どおりの圧勝だった。

ということでトヨタ初勝利に沸く現地から、プレビュー記事にも登場いただいた、モータースポーツジャーナリストの世良耕太(せら・こうた)氏と川喜田 研(かわきた・けん)氏による「ル・マン総括&懺悔対談」をお届けする!

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川喜田 いやあ、ついに勝ちましたねえトヨタ!

世良 うん、ドライバーの中嶋一貴も「ほっとした」って言ってたけど、見てるこっちも正直「ほっとした」よね。今年トヨタが勝てなかったら、どうなっちゃうんだろう...と心配だったからさ。

川喜田 なんだかんだ言っても、ずっと悔しい思いをしてきたのを横で見ているから、今回は素直に「良かった」「おめでとう」っていう気持ちになったし、表彰式で喜んでいるドライバーやチームスタッフを見てたら、ちょっとウルウルもしたよね。

世良 うんうん。

川喜田 ただですよ、われわれは週プレ本誌26号のプレビュー記事『トヨタ「ル・マン完全制覇」に立ちふさがる3つの不安』で、「意外とノンハイブリッド勢と接戦になるかも」って言ってたのに大ハズレだったじゃない。

世良  確かに(汗)。同じLMP1クラスでも、トヨタとほかのノンハイブリッド勢との差が思ってた以上に大きくて、まったく勝負にならなかったね。プレビューで も話したように、ノンハイブリッド勢は燃料をより多く使えるルールなので、エンジン単体(ハイブリッド・システムを除く)では200馬力分ぐらい有利な計 算だったから。

そのあり余るパワーがあれば、長い直線の後半のスピード差で勝負できる。あるいは、セッティングでパワーの余裕を空力のダウ ンフォースに振れば、コーナーリングスピードが上がってトヨタをぶち抜く...なんていうシーンを想定してたんだけど、そんなの、この24時間で一度も見な かったな(笑)。

川喜田 それはなぜ?

世良  まず、レース本番では遅いクルマをかき分けながら走るので、ハイブリッドが有利な「加速力」が予想以上に重要だったというのが一点。それに「クルマ」とい うハードウエアの違いだけじゃなく、ドライバーやチーム力の面でも、今年のトヨタはほかのライバルと比べて圧倒的に飛び抜けていたよね。

川喜田 まあ一貴、(小林)可夢偉、ブエミと「元F1ドライバー」がそろってるところに、今年はアロンソまで加えちゃうぐらいだからなあ。

トヨタが圧倒的な強さを見せつけるなか、今年のル・マンを盛り上げたのが7号車、8号車のトヨタ2台が繰り広げた激しいトップ争いだ。2016年の悲劇的な幕切れに心を揺さぶられ「トヨタファン」になった地元ファンも多いとか世良 でも、今回トヨタが圧勝できた最大の理由はやはり「政治力」じゃないですかね。

川喜田 政治力?

世良  そう、トヨタのル・マン参戦を率いてきた村田久武TMG代表の言葉を借りれば、今までトヨタは出来上がったレギュレーションに合わせていくスタンスだった のを、今回はそのレギュレーションをつくる段階からトヨタが主体的に働きかけた。自分たちに有利な状況をつくっていったんだと思うんですよ。

川喜田 なるほど。ちなみに、それって誤解されやすいけど、別に「ズルいこと」じゃないんだよね。実はポルシェだってアウディだって、それをやっていたわけだし。

世良 そうそう、ル・マンやF1のようなヨーロッパのモータースポーツの大舞台では、そういう「政治力」の駆け引きも含めた総合力こそが勝利への鍵なわけだからね。

以前、トヨタがF1に挑戦していたときにはそれができなかったけれど、ル・マンではついに政治力も含めて存在感を持てるようになってきた。まじめな話、それこそが「トヨタが見せた大きな成長」だったんじゃないかと思う。

◆アロンソはやっぱり並じゃない! この続きは明日配信予定!