精神科医・ゆうきゆう先生(右)と、『セックス依存症になりました。』の著者・津島隆太氏の対談第2弾です!

現在、『週プレNEWS』で連載中のマンガ『セックス依存症になりました。』ーー本作がデビュー作となる漫画家・津島隆太氏が自身の壮絶な実体験をベースに性依存症の実態、そして克服への道のりを描く異色作が話題となっている。

連載開始時には、依存症や性問題の専門家と津島先生による対談も配信公開し大きな反響を呼んだが、第2弾となる今回は『マンガで分かる心療内科』シリーズ(少年画報社/作画:ソウ)原作者としても知られる精神科医・ゆうきゆう先生が登場。

性にまつわる多様な分野のエキスパートと依存症当事者による対話を通して、さらに知られざる「性依存症」の正体を解明! 前回に続く、この後編では現代のネット社会に潜む闇について、警鐘を鳴らす!

* * *

―今回の企画は、「性依存症患者と精神科医」であると同時に「漫画家と漫画原作者」というクリエイター対談でもありますよね。

津島 そうですね。ゆうき先生は、近年のマンガをはじめとする創作物における性表現に対する規制強化の流れについてはどうお考えですか?

ゆうき それは意見が分かれるところですよね。「アダルトビデオや成人向け漫画といったポルノによって性欲が発散され性犯罪が減る」という考えがある一方、「過激な性表現を含んだ創作物こそが性犯罪を誘発している」という人もいます。

しかし、「性表現を含む創作物と性犯罪との直接の因果関係」は置いておいて、性に向かうエネルギーを創作という方向に向ける、という行為はいいことです。とりわけ日本人は、春画や萌え文化に代表されるように悶々としたエネルギーを芸術やカルチャーに転換するという文化性があったわけですよね。

ただし注意してほしいのは、「アダルトビデオや成人向け漫画を買って楽しむ」というのと「ネットでアダルト画像を検索する」というのは違います。ネットの情報って膨大でしょ? 人間、特に男性には「狩り」の本能がありますから、何かを収集するというのは快楽につながる行為なんです。しかしネットでそれを行なうと、狩る対象が無限で終わりがない。これは依存に繋がる危険性が大です。

最近は、睡眠もよく摂れないという津島氏

津島 ネットでアダルト画像を集めるのは、男だったら当たり前だと思っていました...確かに、ダウンロードはするものの見返すことはほとんどないですね。

ゆうき 一生かかっても見られないような量の画像がたまっていれば間違いなく依存であり、控えるべきです。ダラダラと見るのではなく、「ここまで仕事を終えたらアダルト動画を見てもいい」というように、具体的な報酬と結びつけてうまく付き合うことがポイントですね。

加えて、リアルな性行為ではなく「デジタル上のポルノ」を見ることによる弊害もあります。例えば、「実際のホタル」を見ている時と、「映像のホタル」を見ている時の人間の脳の状態は違うと言われています。目の前にホタルが飛んでいれば「捕まえたい」とか、虫が苦手な人なら「気持ち悪い」など、なんらかの感情が起こりますよね? しかし映像のホタルを見ても人間の脳にはそういった感情が想起されず、「ホタルが見えているのに脳が興奮していない」という不自然な状態になるわけです。

この状況に慣れてしまうと、脳の血流が悪くなり、具体的には「AVを普段から見すぎていると、実際の性行為の時、勃起しなくなる」といったケースも考えられます。昨今は技術の進歩がすさまじく、VRに代表されるようにポルノもよりリアルに近づいていますからね。

昨今、大ブームのVRについても警鐘を鳴らす、ゆうき先生

マスターベーションはもちろん、セックスも断つべきと考えている津島氏に新たな方法を促す

第1弾の対談では、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳(あきよし)氏から「ハームリダクション」という新たな治療法について伺いました。性依存症に関して、例えば「薬で治す」といったような画期的な治療法はないのでしょうか?

ゆうき アルコール依存症では、すでに抗酒薬(アルコールを摂取すると嫌悪感を引き起こす治療薬)といった薬も使われています。しかし、性依存症に応用するのは難しいでしょうね。例えば、「射精すると嫌悪感を催(もよお)す」という薬があったとして、事後に効果が出ても意味がないでしょう(笑)。そもそも、津島先生は射精による快楽が得たくてセックスをしているわけではないですよね?

津島 ええ。実際、通販で「勃起しなくなる薬」を買って服用してみたこともありますが、それでもセックスに対する渇望は抑えられませんでした。私が依存しているセックスと性欲は別物なんですね。

ゆうき 前提として、「どこからがセックスか」という問題もあります。例として、ギャンブル依存症の人は「大当たり」そのものだけではなく「リーチ」がかかっただけでも脳内でドーパミンが出て快楽を感じます。同様に、痴漢の嗜癖の方は、電車に乗るだけで興奮したり、窃視症(のぞき)の方は「のぞきが可能なポイント」を見つけるだけで高まったりする。ですから、性欲そのものを排除したり抑えつけたりすることは根本的な解決ではないですね。

「依存症に完治はない」という結論は、前回対談と同じ結論だった...

―この記事やマンガの読者の中にも、「自分も性依存症かも」と悩んでいる方がいると思います。取り返しがつかない状況になる前にすべきこととはなんでしょうか。

ゆうき 他に夢中になることを見つけることですね。「男性に求められているときだけ自分を肯定できる」という性依存症の女性患者の方であれば、仕事で褒(ほ)められたり、恋人ができたりすれば依存から抜け出す第一歩になるでしょう。

今、これを読まれている方の中にも「自身が依存症かも」と悩んでいる人がいるならば、深みにはまらないようにするためにも、友達や家族といった「悩みを打ち明けられる関係」を常日頃から構築しておくことが大切ですね。そういった方が周囲にいない場合は、カウンセラーや当院のようなメンタルクリニックに気軽にご相談してみてください。

ゆうきゆう
精神科医・マンガ原作者。東京大学理科Ⅲ類(医学部)に現役入学、東京大学医学部医学科卒業。2008年より「ゆうメンタルクリニック」を開院。「東京脱毛クリニック」など幅広い展開もしている。著書に『逃げ出す勇気』(角川新書)、『マンガで分かる心療内科』シリーズ(少年画報社/作画:ソウ)など。

津島隆太つしま・りゅうた
年齢、出身地ともに非公表。長く漫画アシスタントを務め、4月13日(金)より自らの経験を描いた『セックス依存症になりました。』で連載デビュー。

『セックス依存症になりました。』全話公開中!