オアシス・マネジメントの最高投資責任者は、すでに花王の社長らと5月に面会する約束を取りつけているとも明かしている オアシス・マネジメントの最高投資責任者は、すでに花王の社長らと5月に面会する約束を取りつけているとも明かしている
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「花王」について。

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花王と"物言う株主"の対立が話題になっている。私は「めぐりズム」がなければパソコン生活が不可能なほど同社にお世話になっているのに不謹慎だが、この対立がきわめて面白い。

報じられた事実としては、アクティビストファンドである香港のオアシス・マネジメントが花王の株式3%超を保有。花王に対し採算の悪いブランドを整理したり、成長分野に集中したりするよう要求した。

一方で花王は、自社の構造改革が理解されていないとして反論を試みた。オアシスは来年の株主総会で株主提案等を行う可能性があることを示唆した。まあこんな感じだ。

私が面白いと感じた理由は、そもそも会社は株主のものだから「物言う」のが標準で、事業ポートフォリオにツッコんだり、株主提案をしたりするのも当然でしょ、それを避けたいなら非上場化すればいいんじゃないの――といった旧来からの論拠だけではない。花王の経営陣もそれは理解していて、反論はしつつも建設的に関わるとしている。

それより興味深いのは、アクティビストファンドが出す提言書のなかでも今回のものは具体的で意地悪で良い、という点だ。

『a better kao』という特設サイトで読めるが、企業戦略の教材にもなるので、経営学を学んでいる人は一読する価値があるだろう(ところでこのサイトは、ワードプレスという無料のブログ作成ツールで作られていることがURL構造からバレバレなチープさもすごく良い)。花王で働く人たちは心穏やかではないだろうが、指摘と提案事項がことごとく具体的なのだ。

たとえば、花王の社長が2023年の株主総会で述べた内容「最も高い利益と最も多くのリピーターを持つ企業というものは(中略)マーケティング費をほとんどかけていません」をわざわざ顔写真つきで引用したその隣で、むしろ世界のトップブランドが大々的に広告費をかけている事実を紹介している。花王の某ブランドのLINEアカウントでは1件しか投稿しておらず、YouTubeへの誘導もリンク切れであると指摘する。

また、ベトナムの小売店舗で撮影した写真を紹介し、他ブランドが棚割りで優位であることと、「粗末な棚スペース」(*私の表現ではない)に置かれた花王商品を対比させてもいる。イタリアやドイツでECサイトに投稿されたレビューの邦訳もしており、それらは「花王の商品はいいが流通網が整っていない(大意)」といった内容だ。

失礼ながら笑ってしまったのは、花王の発表した戦略ビジョン"グローバル・シャープトップ"について、ご丁寧に地球のイラストつきで「〈先端の尖[とが]った地球〉なんて言葉は初耳です」と指摘してみせている点だ。その一方で、提案はウェブサイトの再構築やSNS運用まで、かなり具体的だ。

なかには正直「どうなんだろう?」と思える内容もある。しかし、取締役のダイバーシティや監督機能の強化など、花王も気づいていながら根源的解決にいたっていない点も多いはずだ。

なにより、これは株主の意見なのだ。対話を重ね、価値向上のために使えるものは使い、よりよい企業を志向すればいい。これを好機に将来へ「アタック」すべきだ。......私のオチは「サクセス」していない。「キュキュット(と)」スベり止めが必要だった。

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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