正しいバルカン式敬礼は、もう少し手を高く上げて「長寿と繁栄を」と挨拶します

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は思い入れの深いSFドラマ『スター・トレック』について語ってくれた。

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先日、ふとした瞬間に懐かしい音楽が流れてきました。私にとっては、聴くだけでさまざまな場面が浮かび、興奮を隠しきれなくなる曲なんですが......。近くにいた人がひと言、「ウルトラクイズの曲だ!」。え? ウルトラクイズってなんですか......?

どうやら、日本では『アメリカ横断ウルトラクイズ』の曲として知られているようですが、あれはもともと「スター・トレックのテーマ」なんです!

アメリカのSFドラマ『スター・トレック』シリーズは、1966年の第1シリーズ放送開始から約半世紀、今でも新作が放送されている超長寿ドラマです。テレビシリーズだけではなく、映画も10本以上作られています。

実は、この歴史の厚みゆえ、どこから語っていいかわからず今まで避けてきたんですが、日本ではそのテーマ曲でさえウルトラクイズの曲として知られていることに危機感を覚え、ご紹介することにしました。

最初に作られた『スター・トレック』(邦題は『宇宙大作戦』)は、23世紀が舞台になっています。そこでは、地球人たちはバルカン人といったほかの星の種族と惑星連邦を構成しているんですが、その連邦が誇る最新の宇宙船が、このドラマの主人公たちが乗り込むエンタープライズ号です。

エンタープライズは、ワープ航法を駆使して宇宙を探索したり星間の外交問題を解決するなど大活躍します。しかしこの本格的なSF設定が災いして視聴率が伸びず、第3シーズンで打ち切られてしまいました。

このドラマがカルト的な人気を得たのは、70年代以降のこと。各局で繰り返し再放送されるとともに、79年には映画版も公開されるなど、国民的SFシリーズへと成長していきます。

私は95年スタートの第4シリーズ『スタートレック ヴォイジャー』をリアルタイムで見ていた世代なんですが、当時、再放送されていた初代の『スター・トレック』や第2シリーズの『新スター・トレック』(87年放送開始)も並行して見ていました。

『スター・ウォーズ』を作ったジョージ・ルーカスは、自分の作品のことを「ファンタジー」と言っていますが、この『スター・トレック』は本当の「SF=サイエンス・フィクション」です。

同作の生みの親であるジーン・ロッデンベリーという人は、現代科学だけではなく世界の本質を鋭くとらえ、未来を予見していた人でした。ドラマの中の惑星連邦は、現代で言うところの国連みたいなものですが、その連邦の最先端であるエンタープライズに乗り込むクルーの人種構成は、白人男性に黒人女性、日系人、後にロシア人まで加わるんです。

66年といえば、アメリカで黒人に公民権を与えた法律が成立してからわずか2年後ですが、ロッデンベリーは「23世紀の人類は人種差別や性差別を乗り越えているはずだ」と考えたそうです。ロシア人キャラが加わった頃にはまだ冷戦が続いていたので、とても画期的でした。

次回(8月24日配信予定)は、そんな『スター・トレック』が描いた革新的なシーンを取り上げます!

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。初めて触れた自分と兄以外のハーフは、『スター・トレック』に登場するバルカン人と地球人のハーフのスポック