もはや本国以上に日本の国民的映画な『コマンドー』

1985年に公開され世界的に大ヒットした映画『コマンドー』。89年には現在までの人気を決定づける日本語吹き替え版がテレビで放送される。これほど愛され続けるコマンドーの魅力とは?

■国民的映画にして最後の昭和遺産!

アーノルド・シュワルツェネッガーさんが主演した1985年の映画『コマンドー』。当時はシルベスター・スタローンさんやチャック・ノリスさんを筆頭としたマッチョなアクション映画が大全盛の時代で、漏れなくコマンドーも大ヒット! しかも公開から30年以上たった現在でも、アメリカはもちろん、日本でも人気は衰えることはない。

それどころか10月20日には吹き替え版を担当した俳優さんや翻訳家さんが集結する『コマンドー テレビ朝日版吹替・制作30周年アニバーサリー特別上映』というイベントまで開催される事態となっている。

10月20日に東京・池袋の新文芸坐で2回上映された『コマンドー』

若い男性ファンを中心に、いずれも完売する人気っぷり!

そのイベントで司会を担当した映画ライターで『シュワルツェネッガー主義』(洋泉社)の著書がある、てらさわホークさん。念のために3行でストーリー解説をお願いします。

ホーク 娘を誘拐された元軍人が奪還するため、第3次大戦を勃発させます。

──ちょっと、何言ってるかわからない! シュワさんの専属声優としておなじみ、俳優の玄田哲章(げんだてっしょう)さん。コマンドーの見どころとは?

玄田 筋肉モリモリ、マッチョマンの変態を演じた、玄田です。

──いきなり劇中の名ゼリフ!! でも、それ玄田さんが演じるシュワさんが言われたやつ! で、見どころは?

玄田 最後の戦闘シーンですね。アーノルドが演じるメイトリックス大佐がひとりで敵の大部隊を倒す壮絶な戦闘です。このシーンで戦死した敵兵を数えた人がいて、104人戦死したといわれています。

──まさに第3次大戦! ヒロインのシンディ役を担当した土井美加さんは?

土井 実は私、シュワルツェネッガーさんの作品でヒロインを演じることが多いのです。なかでもシンディは、自然にメイトリックス大佐に心を開いていく部分がすてきでしたね。当時としては珍しかったアフリカ系女優のヒロインというのも画期的だったと思います。もちろん、アクションも素晴らしいです。

土井美加さんが担当したヒロインのシンディ。男性にフラれた直後に第3次大戦に巻き込まれるという、あまりにも持っていない女子

──玄田さんがこの映画でシュワさんに感じたことは?

玄田 僕は『コナン・ザ・グレート』(82年公開)、『ターミネーター』(84年公開)でも吹き替えを担当していました。正直、当時はスタローンのほうが人気で、アーノルドは人間味を感じない役柄が多く「ただの筋肉ムキムキマンで終わってしまうんじゃ......」と、思っていました。コマンドーでは娘を持つ父親役でセリフも多く、それまでとは違う人間味ある役柄をうまく演じていましたね。

土井 冒頭の娘と楽しく暮らすシーンは良かったですね。それまでの作品と違って普通の男性っぽさを感じました。

玄田 アーノルドはとても頭のいい俳優なんですよ。監督の指示をすべて完璧にこなす。だからシリアスもコメディも演じられるのです。その片鱗(へんりん)を見せたのがコマンドーだったんです。

──アクションの面では、どうでしょう?

玄田 オープニングから、メイトリックス大佐が3mぐらいの丸太を肩に担いで「バーンッ!」と登場します。そのシーンからして普通ではありません(笑)。そしてカーチェイスやラストの戦闘シーンまでアクションが連続する。今と違って、当時は全部生身でやっているんですよ。髪型も精悍(せいかん)な短髪にイメージチェンジし、これはスタローンを超えるんじゃないかという予感がありましたね。

──玄田さんの予感は的中し、シュワさんはハリウッドを代表するスターに! ところで日本でコマンドーが愛されるきっかけとは? ホークさん、どうでしょう?

ホーク きっかけは89年の1月1日。テレビ朝日の日曜洋画劇場で放送された、玄田さんが吹き替えを担当したバージョンです。

──元日から104人も死傷者出るやつ放送するとか、どうかしてるって!!

ホーク この吹き替え版で、ショッピングモールで不審者として警戒されるメイトリックス大佐を評した「容疑者は男性、190cm、髪は茶、筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ」というセリフ。そして、メイトリックス大佐の戦闘力を「第3次大戦」と表現する粋なセリフの数々が、吹き替え映画史に残る名言として注目され始めたのです。

ラスト20分は第3次大戦が勃発! ラストの戦闘シーンで、完全武装状態のメイトリックス大佐。このスタイルは、後のアクション映画やゲームに大きな影響を与えた

──そんな名言の数々を生み出したのが、翻訳家の平田勝茂さん。この国民的映画の翻訳台本はどのように書かれたのでしょうか?

平田 もう、好き勝手に書かせてもらっていたいい時代でしたね(笑)。でも、ニュアンス的には英語そのものを変えたというわけじゃないんですよ。終わったらどこへ飲みに行こうか考えながらノリと勢いで一気に書き上げました。

──俳優さんたちのアドリブなども?

平田 コマンドーだけじゃなく、昔はセリフ的にちょっと長さが足りない部分など、俳優さんたちがうまくアドリブで調整してくれました。それが楽しくて、わざとセリフを空白にしてたこともありましたね。そういう部分のノリの良さも当時は許されました。

──土井さんもアドリブを?

土井 それこそアドリブは、玄田さんをはじめとする先輩世代ですね。先輩たちがアドリブを入れてオリジナルのキャラクターをつくっていくのは、収録で聞いていて楽しかったです。

──最近の吹き替え作品はアドリブを入れることはないのでしょうか?

平田 現在は日本語台本が完成すると、それを英語にして本国へ送りチェックするシステムになっています。ですからアドリブは一切ありません。今後はコマンドーのように勢いのある吹き替え映画が生まれることはないでしょう。

──国民的映画どころか、吹き替え映画界の昭和遺産! 玄田さんは、現在のコマンドー人気を実感することは?

玄田 それは、この上映イベントですよ。初めて劇場でコマンドーを見るという若い子も、みんなセリフを覚えている。例えば、僕が一番気に入っているセリフ「おまえは殺すのは最後だと言ったな、あれは嘘だ」と観客に向かって言う。

すると観客は「そうだ大佐、助けてくれ!」と劇中の悪役のセリフで答える。これはうれしいですよ。

──確かに、観客の皆さんもプロすぎです!

「もちろんです。プロですから」の名ゼリフでおなじみのラスボス、ベネット。声は2013年に急逝された石田太郎さんが担当していた

■若い世代にも人気の理由とは?

──ホークさん、どうして若い人たちにまでコマンダニストが増えているのでしょう?

ホーク コマンドーは89年のテレビ朝日版の吹き替え作品以降、これが何度も放送されています。それで新しいファンが増え、00年代からは、放送直前にはツイッターを中心に祭りになります。

ですから、若い世代にも、粋なセリフと俳優さんたちの名調子によるグルーヴ感が人気になっているのです。この上映イベントで盛り上がっている若いファンを見て、もう日本のコマンドー人気は揺るぎないなと安心しました。

──海外でもコマンドーは人気なのですか?

ホーク コマンドーが最終決戦の直前にロケットランチャーからナイフまで体に完全装備するシーンがあります。20秒ほどのシーンなのですが、これをループさせ長尺動画を制作したファンがいます。素晴らしい動画です。

また、このシーンやメイトリックス大佐のスタイルは、多くのアクション映画やゲームでオマージュされており、海外でも若いコマンダニストが育っています。

──ただのカルト映画的な扱いではないと?

ホーク まったく違いますね。B級カルト映画にありがちなアラ探しをするような作品ではありません。家族愛からアクションまで入った超大作で、みんな真剣に楽しんでいます。唯一の問題は後半になるにつれてセリフがほとんど聞けないこと。戦闘シーンばかりですから(笑)。

──プロのコマンダニストたちは、どのように作品を楽しんでいるのですか?

ホーク 最初は年間12回見るぐらいなんですけど、私ぐらいだと音声のみとかありますね。古典落語やちょっと乱暴な環境音楽のように楽しんでいます。でも、やっぱりファン同士で名ゼリフを大声で叫びながら見るのが楽しいです。

──最後に中の人たちから、ひと言ずつお願いします!

平田 コマンドーを愛してくれてありがとうございます。もう、会うことはないでしょう!

──それ、コマンドーのラストシーンの名ゼリフ!!

土井 コマンドーをきっかけに吹き替え映画が認知され、ファンが増えていくとありがたいですね。

玄田 コマンドーは何度見ても新しい発見のある映画です。これからもコマンドーを楽しんでください。

アイル・ビー・バック!!

──これぞ、映画史上最強の名ゼリフかと!

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