『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

作家6名による短編小説集『行きたくない』に『ポケット』を書き下ろした加藤シゲアキさんが先週に続き登場!

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──アンソロジー『行きたくない』の中に収録されている短編『ポケット』を読ませていただいたんですけど、最後ぶつっと終わったのが印象的でした。

加藤 ぶつっと終わるほうがいいかなって思ったんですよね。

──それ、お好きだとおっしゃっていた『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)のラストを想起させるといいますか。

加藤 あー、なるほど。あそこまでキリのいい幕切れではないですけどね。あと、こういう言い方をしちゃいけないかもしれないですけど、「おもしろすぎない短編」を書きたいんです。

──と言いますと?

加藤 わかりやすい展開というよりは「なんか読んじゃう」「いきなり終わった」みたいな。村上春樹さんの短編ってそういうのが多くて、例えば韓国で実写化された『バーニング』(18年)という作品は『納屋を焼く』という短編が原作なんですけど、すごく心に残って。「ああ、自分はこういうのを書きたいんだな」って思うんです。

とはいえ、村上春樹さんの作品にハマりすぎてしまうと気づかないうちに村上節に酔ってしまうので、あえてなるべく距離を取って生活しています。

──この作品はどういう思いで書かれたんですか?

加藤 えっと......(苦笑)。こんな質問をしてくださるんだったら、もっといろんな思いを込めて書けばよかったなって。最初に、編集者の方から「行きたくないというテーマで書いてください」と提示されて、そこから行きたくないことを思い出して書きました。

──あ、もしかして、ちょっと実話なんですか?

加藤 そうなんです。中学生の頃、男友達に「彼女と別れ話をするからついてきてほしい」って言われて、彼が渋谷のスクランブル交差点の近くで別れ話をしているのをハチ公の横で見守ることになって......。

結果的に、彼は割とすぐ帰ってきたんですけど、「なんなんだろう、この謎な時間は」って感じた記憶があって、それをテーマにしました。

──なるほど、そんな実体験があったとは! 最後に、映画好きの加藤さんが選ぶ、「一番好きな映画」のお話を伺いたいです。

加藤 韓国のキム・ギドク監督の『うつせみ』(04年)です。空き家に勝手に住み着いていく男のお話で、彼は特に何かを盗むワケではなく、そこで生活したり、軽いイタズラをしたりする。

そんなあるとき、大金持ちの留守の家と思って生活していたら、DVを受けている女の人がずっと隅っこにいたことに気づいて、彼女と一緒に空き家を転々とするようになるんです。

──おもしろそう。めちゃくちゃ見たくなりました!

加藤 彼の映画作品を好きな人は多いんですけど、なぜかこの作品の名前を挙げる人は少なくて。そのラストシーンがすごく映画的で「おーっ!」ってなるんです。

変な話、小説は文字しか書けないけど、映画はいろんなものでしゃべれる。言葉じゃないもので表現している映画には憧れますね。だからこそ、真逆だけど小説でそういうことをやりたいですね。

●加藤シゲアキ(KATO SHIGEAKI)
1987年生まれ、大阪府出身。アイドルグループ「NEWS」のメンバー。2012年に『ピンクとグレー』を上梓して小説家デビュー。作家6名による短編小説集『行きたくない』(角川文庫)が発売中

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