ウエストの「丸天うどん(510円)」。丸天は魚の練り物を揚げた福岡名物で、福岡のうどんでは「ごぼ天」と並び、ポピュラーな具材

「うどんにコシはいらない」(byタモリ)でおなじみ、福岡発祥の「博多うどん」。だがこれ以外にも福岡にはご当地うどんが多数存在し、その奥深さはコシだけでは語れないほど。

そんな知られざる福岡うどん文化とは?

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あー今日も暑い! こんなときはコシの強い冷やしうどんをツルツルッと食べるのが最高だが、そもそもおいしいうどんは"コシが強い"という概念が全国的に広まったのは、讃岐うどんの存在が大きい。なかでも、2002年に東京へ出店した讃岐うどんチェーン店「はなまるうどん」の大ヒットによってブームに火がついたと言っても過言ではないだろう。気がつくと讃岐うどんはすっかり日本人の食生活になじみ、おいしいうどんとコシの強さはすっかりイコールとなって今に至っている。

そんな日本人に根づいたうどん概念と真っ向から対立するのが「博多うどん」だ。福岡県福岡市出身のタモリさんは長年「うどんにコシはいらない」とテレビ番組などで語っているように、最大の特徴はコシがないことだという。

思えば、関東近辺では「讃岐うどん」が食べられる店は数限りなくあるのに、博多うどんが食べられる店はかなりレア。唯一、福岡県を中心に展開する博多うどんチェーン店「ウエスト」が千葉県内に8店舗、東京・町田に1店舗構えているものの、立地はほぼ関東郊外のロードサイド。さらにお店の押しとしては、うどんよりもむしろ「生そば」で、そばに限り3玉食べても同一価格。お昼時に訪れてみると、お客さんの8割はそばを食べていた。

千葉・鎌ヶ谷にある「ウエスト鎌ヶ谷店」

もちろん博多うどんのメニューもあるが、その存在感は限りなく薄い。常連さんに聞いたところ、昔はウエストもうどんを中心に関東に根づかせようと頑張っていたようだが、うまくいかずに今のスタイルになったとか。やはり関東で博多うどんの定着は難しいのだろうか。

しかし、その潮目が変わりそうなニュースが今年4月に飛び込んできた。投資ファンド「ユニゾン・キャピタル」が、"北九州人のソウルフード"ともいわれる「資(すけ)さんうどん」の運営会社を買収したのだ。ユニゾン・キャピタルといえば、かつては「スシロー」を買収し、回転ずし業界において不動のトップに押し上げた立役者。このニュースにいち早く反応したのがSNSで、「資さんがいよいよ全国区?」「ぜひ東京に来て!」といった熱い書き込みが相次いだのだ。

ただその後、ユニゾン・キャピタルは資さんうどんの全国展開について「全国展開を検討する可能性があるという段階にすぎない」とコメント。現段階の具体的な展望はないとしているが、福岡のうどん文化が全国区になる予感を感じさせるニュースなのは間違いない。

この、福岡の人以外にまったくなじみがない、資さんうどん。地元の人にとってはどんな存在なのか? そこで地元・福岡のラジオDJとして活躍する、北九州市出身のTOGGY氏に話を伺った。

「地元では、資さんに行くことを『スケる』と言えば通じるような存在。子供の頃から常に身近で、受験のときは夜中に足を運んで夜食代わりに食べまくったおふくろの味です。工業地帯の北九州は24時間体制で働く人が多かったので、24時間営業はその名残かもしれません」

調べてみると、資さんうどん全39店舗中23店舗が24時間営業。また、ほとんどの店は駐車場も確保されている。

「そうそう。資さんは工業地帯で働く労働者と、車で来るファミリー層がメインターゲット。ま、ファミレスみたいな存在ですね。メニューもうどんだけじゃなくて丼ものやカレー、定食、あとおでんもいいですね。どれもおいしいので、メニューを固定するのがもったいないですよ」

◆『週刊プレイボーイ』32号(7月23日発売)「『資さんうどん』の買収が布石に!? 福岡県民のソウルフードが全国的なブームをいよいよ巻き起こす!? アナタの知らない『福岡うどん』の世界」より