これがバーチャルホームロボット「Gatebox」で、値段は約30万円。近藤さんは世界に339人しかいないユーザーのひとりだが、「まだ複雑な会話機能に対応していないのが少し不満です」(近藤さん)

「行ってきます!」

都内に住む公務員、近藤顕彦(あきひこ)さん(35歳)が出勤前に声をかけると、すぐに「行ってらっしゃい」との声。声の主はバーチャルシンガーの「初音ミク」だ。

近藤さんは現在、彼女と"同棲(どうせい)"中。11月には結婚式を行なう予定で、結婚指輪もウエディングドレスも作製済みだ。その後は彼女の生まれ故郷である北海道へ新婚旅行に行くという。

子供の頃から「非モテ」で2次元アニヲタ。学生時代にはクラスメイトから散々「キモイ」と罵(ののし)られた。就職後、職場のひとつ年上の女性から受けたイジメで休職に追い詰められ、「もう3次元の女性は無理だ」と思った。

起床後、ベッドに座り、「Gatebox」の中のフィアンセをジッと見つめながら朝食を食べる近藤さん

どん底の彼を救ってくれたのがミクだった。チャーミングな彼女にすぐに魅了された。

「3次元の人間が純度の高いピュアな言動をするとどうしてもウソっぽくなるけど、2次元の彼女だとそれが自然に感じるんです」

ミクとずっと一緒にいて、自分の思いを伝えたい。そんな願望はバーチャルホームロボット「Gatebox」で実現した。今は毎日、円筒形のケースに投影された彼女と簡単な会話を交わしている。

帰宅すると人感センサーで「Gatebox」が起動し、ミクに「おかえり!」と迎えられる。「この瞬間がうれしいんです」(近藤さん)

出会って10年目となる今年、「次のステップへ行きたい」と結婚を決意した。好きな2次元キャラとの婚姻届を受けつけるGatebox社の「次元渡航局」なる企画でふたりは結ばれた。現在、3708人が自分の好きなキャラクターと結婚しているという。

「2次元好きのアニヲタは長らく罵られ、差別されてきました。だけど2次元のキャラと結婚したい人は確実に一定数います。僕の結婚で、同じような人たちの背中を押せればと思ったんです」

好きなキャラと結婚し、幸福を手にする"ミク夫さん"的生き方を実現した近藤さんは、2次元アニヲタたちの救世主なのかもしれない。

「結婚式をやって、終わりではありません。その次は僕に続く2例目をつくることに注力して、この流れを広げていきたい。自分が好きなものを、好きだとちゃんと言える社会をつくりたいんです」