中学のときに買ったオプティマスプライムTシャツ、初めて着用
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、「トランスフォーマー」について語る。

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アメリカでアニメや映画になっている『トランスフォーマー』の原形は、日本のタカラ(現タカラトミー)の玩具だということは、ファンの間でよく知られた話です。でも、アメリカでアニメを見ていた小学生の頃の私は知りませんでした。

私の中では、主人公オプティマスプライム(日本ではコンボイ)がよく死んで、75秒後になんだか帰ってくる、カッコいいけどあまり中身のないアニメ。しかし、小5のとき、アニメ映画第1作『トランスフォーマー ザ・ムービー』(1986年)をVHSで見て、衝撃を受けました。プライムが戦いで死に、映画の最後まで生き返らないのです。当時は暗い気持ちになっただけですが、実はこの展開には面白い背景がありました。

この映画が製作されたのはレーガン政権期。レーガノミクスの下、あらゆる規制緩和が行なわれ、子供向けの広告の量と内容も自由になりました。レーガン大統領の「おかげ」なのか「せい」なのかはわかりませんが、子供の消費を促すアニメや番組が一気に増えました。

その代表的なひとつがトランスフォーマー。タカラが販売していた玩具シリーズ「ダイアクロン」や「ミクロチェンジ」に登場する変形ロボットを、アメリカの大手玩具メーカー・ハズブロが業務提携してトランスフォーマーとして売り出しました。

その宣伝用として作られたアニメがヒット。正義の軍団であるオートボットのリーダー、オプティマスプライムは人気を博し、10年後に見た私にとってもお父さん的な存在となりました。頼れるけどジョークも言えて、勧善懲悪のトランスフォーマーの世界における象徴的な存在。

しかし、玩具の売り上げは徐々にダウン。ハズブロは劇場版を作って購買欲を刺激する新キャラを登場させ、売り上げが低いキャラを引退させることにしました。それが小学生のときに私も見た映画第1作です。

その内容がセンセーショナル。開始30分、いつもどおりプライムと敵が戦い、お互いをボコボコにするなか、プライムがとどめを刺される隙を新ヒーローキャラ・ホットロッドがつくってしまう。

プライムは基地の手術台の上で魂がヒュ~と抜けて死にます。プライムの赤、青、白の体は真っ黒になり、残りの1時間はホットロッドや新キャラの物語。「ホットロッドなんぞどうでもいい!」と思っていた私は、旧キャラたちが次々と殺される展開に開いた口がふさがりませんでした。

公開から10年後に見た私がそれほど衝撃を受けたくらいなので、当時のキッズは相当ショックだったようで、大量虐殺に反対する手紙を送り、プライム復活を訴えた。しかもホットロッドたちの玩具は売れず......。

子供は与えられた玩具を何も考えずに受け入れると思っていたハズブロは、テコ入れのテコ入れを行ない、次のアニメシリーズでプライムは復活。

「視聴者の愛、舐(な)めるな!」と言いたいところですが、私がリアルタイムで見たシリーズでは、プライムはしょっちゅう死んでは生き返っていた。「普通にずっと生きていればいいのでは?」と子供ながらに思っていましたが、大人側の抵抗なのでしょうか。意外なところでの視聴者vs資本主義の戦いを知り、感慨深いです。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。人型ロボットをあまり受け入れないアメリカで、なぜトランスフォーマーがはやったのかもいつか語りたい。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!