『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、右派・保守派の変貌について語る!

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右派・保守派の論客、そしてそれを支持する人々の"劣化"が急速に進行しているように思えてなりません。

月刊誌『新潮45』がいわゆる「杉田水脈(みお)論文」を擁護して休刊に至った騒動が象徴的ですが、玉城(たまき)デニー氏が勝利した沖縄県知事選挙でも、辺野古新基地建設反対を掲げた玉城氏への誹謗(ひぼう)中傷がネット上にあふれました。

明らかなデマ情報とともに玉城氏を"左翼系の危険人物"であると紹介した「特設サイト」までも現れ、それを多くの右派系SNSアカウントが喜々としてシェアしました。

振り返ってみれば、2011年3月の福島第一原発事故の後には、左派陣営の劣化が表面化しました。放射能の恐怖にあおられるように、事実(ファクト)を直視せず、自分たちの信じたい物語(ストーリー)に陶酔した人々は、この世の中から原発をなくすという目的・主張を補強するものなら明らかなデマでさえのみ込んでいきました。

非常に偏った(事実に基づかない)意見を持つジャーナリストや活動家が世論を扇動し、多くのメディアも"駒"として彼らを利用しました。

そんなとき、事実と思われる情報や科学的な分析を基に、そういった人々に冷や水を浴びせていたのは、右派・保守派陣営の人々でした。ところが、今やその関係性は左右反転気味です。

右派のまともな論客の多くは論戦を離れ、残った"劣化組"はデマ情報にもてあそばれ、それに左派陣営がツッコミを入れて炎上するというのが定番です。

あえて挑発的な言い方をすれば、原発事故で目覚めた"放射脳"と、「移民」や「在日」を正当な理由なく敵視する"ネトウヨ脳"は本当によく似ています。社会や世界が変わろうとしているときに感じる、言葉にできない居心地の悪さや漠然とした不安によって、物語や世界観が煮詰められていくという構造です。

この構造は、アメリカのトランプ旋風や欧米の反移民極右政党の躍進にも通底するものですが、日本の場合はコンテクストや初期設定が全然違います。例えば、『新潮45』の休刊という幕引きは、とても日本らしいものでした。

これがアメリカなら、どんな暴論でも法廷にまで持ち込み、裁判をパフォーマンス化することで"信者"からの支持をさらに集めようとしたでしょう。

コンプライアンスを(時に過剰なまでに)重視する日本。それがある種、偏った主張や暴論を止めるブレーキになっている面もあります。おそらく『新潮45』の失敗を見て、日本の多くの主要メディアからは今後、右派論客の座席が減っていくはずです(あからさまにいなくなるだけでなく、例えばワイドショーのコメンテーターにこれまで3人いたものがふたり、ひとりと減っていく......というケースもあるでしょう)。

ただし、それで実際の世論が中和されるわけではありません。予言めいたことを言えば、これからマイナーな右派メディアはもっと過激になっていく。「リベラルの言論封殺でわれわれの"正しい主張"が抹殺された」とばかり、主要メディアで居場所を失った右派論客は、いわば殉教者扱いされていくでしょう。

こうして"毒性"を強めた右派・保守派は、ますます劣化していくかもしれない。そう考えると、総括・反省なき「休刊」は、なんの解決にもなっていないのです。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!