『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、トランプ大統領に露骨にすり寄る安倍首相を姿勢を批判する。

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「安倍首相からノーベル平和賞に推薦された」

2月15日の会見で、トランプ大統領が発したひと言が波紋を呼んでいる。

トランプ大統領によれば、推薦理由は「北朝鮮からミサイルは飛んでいない。私が北朝鮮と話をつけたためだ。それを日本が感謝してのこと」だという。

安倍首相のトランプ大統領へのすり寄りぶりは目に余る。大統領当選直後、首相がゴルフクラブを手土産に各国に先駆けてお祝いに駆けつけたシーンはなんともみっともなかった。

トランプ大統領に「米国製武器を買え」と要求され、即決でイージスアショアやF35などの「爆買い」も約束した。そして、今回のノーベル平和賞推薦だ。野党から「恥ずかしい」と批判の声が上がるのはもっともだろう。

ただ、今回の一件はトランプ大統領に対する安倍首相の「ポチぶり」を批判すれば、それで済むという問題ではない。日本にとって、もっと深刻な問題を孕(はら)んでいる。なぜか?

つい最近、トランプ大統領はアメリカと旧ソ連が中距離核ミサイルの全廃に合意したINF条約から一方的に離脱した。これは、ロシア、中国との新たな中距離核ミサイル配備競争に入るという事実上の宣戦布告だ。

そのほかにもトランプ大統領はイラン核合意離脱で中東安定化に向けたEUなどの努力に水を差し、エルサレムへの米大使館移転でイスラム社会の強い反発を呼ぶなど、和平どころか中東の不安定化を増幅している。

TPP脱退、地球温暖化対策の「パリ協定」離脱などの問題外交もあり、トランプ大統領には、多くの国々が「世界平和を乱す問題児」と警戒を強めている。

そのトランプ大統領の言葉によれば、安倍首相は「日本を代表して」ノーベル平和賞に推したそうだ。これには、世界中のメディアも驚いた。米NBCニュースでは、「目が飛び出る瞬間」と揶揄(やゆ)された。

このままでは、世界の人々は北のミサイルを封印して自国の安全さえ確保できれば、日本は世界平和には無関心なのだと誤解するだろう。その悪イメージは平和憲法を持つ本来の日本の姿とは正反対だ。

今必要なことは、日本国民が積極的に「アイ アム ノット 安倍」と発信することだ。

トランプ推薦は日本人の総意ではない。トランプ大統領の外交は世界平和にとって危険で、とてもではないがノーベル平和賞には値しない。私たち日本人は、トランプ大統領に追従し続ける安倍首相とは違う!―そんな断固たるメッセージを世界に向けて今こそ送らないといけない。

2015年1月、私はフリージャーナリストの後藤健二さんがイスラム国の人質になっているにもかかわらず、中東を外遊した首相が「イスラム国と戦う周辺国に2億ドルの支援を行なう」とぶち上げたことに抗議し、「アイ アム ノット 安倍」と発信しようと、『報道ステーション』(テレビ朝日)で呼びかけた。

首相の言動は後藤さんの生命を危うくすると憂えたからだ。そのせいで官邸から圧力を受け、私は『報道ステーション』を降板する羽目になった。そこで、最後の出演の際に掲げたのが、あの英語で書かれた「アイ アム ノット 安倍」のフリップだった。

恐れていては平和はやってこない。私は今こそ「アイ アム ノット 安倍」を再び掲げたい。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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