『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、"令和フィーバー"による根拠のない「リセット感」について疑問を投げかける。

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過去最大の10連休となったGWが明けて1週間。世間は通常モードに戻りつつあるが、昭和天皇の崩御で自粛ムード一色だった平成の改元時とは打って変わって、今回の"令和フィーバー"は国中がお祭り騒ぎだった。

ただ、ひとつ気になることがある。それは、平成から令和への改元で、根拠のない「リセット感」が醸し出されていることだ。

大災害が続き、成長力の鈍化で格差や貧困が広まった平成の時代がリセットされ、豊かで平和な令和の時代がやって来る。そんな根拠のない期待感が世の中に広がっているようだ。

だが、本当にそうだろうか? 元号が変わったことで、日本が直面しているさまざまな課題が解決したわけではない。むしろ、危機は深まりつつあるというのが私の認識だ。

令和はズバリ、勝ち組と負け組の格差がより鮮明になる時代となるはずだ。

例えば、先月からスタートした働き方改革。「残業時間の罰則付き上限規制」や「年5日の有給休暇取得の義務化」などが導入され、安倍政権は「これからは働く人ひとりひとりが輝く時代になる」としきりにバラ色の未来を予測してみせる。

しかし、実際には「輝く人」と「輝けない人」への二極化が始まるだろう。

確かに働き方改革で、大企業の労働者の待遇は改善されるだろう。だが、中小企業はどうか。中小企業には働き方改革の適用が1年間猶予されるため、今年は大きな社会問題にはならないだろう。

しかし、猶予期間が過ぎる来年、令和2年には働き方改革をめぐる大企業、中小企業間の対応格差が明らかになる。

改革実現のためには生産性の低いビジネスモデルを変革して収益性を高め、労働者の残業減、給与アップへとつなげないといけないが、資金やマンパワーに乏しい中小企業では生産性を高められないまま、残業規制の導入で残業を減らさざるをえない。

そうなると、労働者は残業減=収入減になるだけ。企業の業績悪化で、「働き方改革倒産」が増加し、それに伴う失業という事態も起きるだろう。

また、大企業で働く人々でもキャリアアップ、スキルアップのための努力を怠れば、負け組の運命が待っている。令和の時代はIoT、AI、5G、自動運転などが日常のものとなり、新しいビジネス環境に対応できない労働者は負け組の烙印(らくいん)を押されることになるのだ。

本来、国民の間にこうした格差が広がりかねないときは政治がさまざまな手を打たなければならない。所得の再分配や貧困対策だけでなく、労働者の新時代対応のためのリカレント教育などに予算を集中投下すべきだ。

これらにより、負け組を減らし、ボトム層の人々を引き上げて社会に包摂するのが政府の重要な役割だ。しかし、今の安倍政権やそれを支える経団連など、日本のアッパー層=既得権層にそうした寛容さは感じられない。

このまま格差や貧困が広がって中間層が痩せ細れば、欧米のように日本でも反緊縮、ポピュリズムを主張する極右や極左の政治勢力が台頭し、格差だけでなく、国民間の分断と対立が深刻な問題となる。

令和はバラ色どころか、シビアな時代になる可能性が高い。いつまでも改元フィーバーに浮かれていると、手痛いしっぺ返しを食らうはずだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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