IOCのバッハ会長は「(安倍首相との協議では)延期の費用については話題にしなかった」とコメント

3月24日、国際オリンピック委員会(IOC)は安倍首相との電話会談を経て、「東京五輪・パラリンピックを1年程度延期する」ことを正式決定した。

新型コロナウイルスの感染拡大状況を考えれば、今年の開催が難しいというのは当然の話。しかし、延期によって発生する莫大(ばくだい)な「追加費用」はどうなるのか。東京五輪の準備に携わっていた前東京都知事の舛添要一(ますぞえ・よういち)氏が解説する。

「東京五輪・パラリンピックの予算は1兆3500億円といわれていますが、関連事業などいろいろ含めると準備に約3兆円かかっています。そして、大会組織委員会は延期の追加費用を最大3000億円程度と試算しているようですが、私は1兆円以上の費用がかかると思います。

まず、競技場として使うはずだった施設が延期した日程で使えるのか。日本武道館(柔道、空手)や東京国際フォーラム(重量挙げ)などの大型施設は毎年開催するイベントなどがあり、すでに仮予約が入っているでしょう。それを追い出すことになれば、補償金などが必要になります」

問題は競技場だけではない。

「メインプレスセンターや国際放送センターとして使用する東京ビッグサイトは、昨年4月から東棟を借り上げて準備してきました。ここは、本来なら東京モーターショーなどさまざまな国際見本市を開催し、ビジネスにつなげる場所です。もう1年延ばすとなると、どれほどの損失になるのか。

また、選手村跡地の分譲住宅は、2023年3月から入居可能ということで販売し、五輪後に改築を始めます。それが1年延びたら、23年3月に入居ができないということにもなりかねません」

さらに、人員に関わるコストも計り知れない。

「現在、大会組織委員会で働いている約3500人のなかには、都庁や企業から出向している人だけでなく、委員会から一時的に雇われている人もいる。延期によって、その人たちの給料はどうなるのか。出向組も1年延期になれば、都や企業も人手不足になり、誰かを雇わなくてはいけなくなるでしょう。警備員の問題もある。五輪の警備のために臨時で雇っている警備員の給料をどうするのか。

このように、言いだしたらキリがない。1兆円でも足りないくらいです。そして、そのコストを誰が払うのか」

そして最大の問題は、新型コロナ問題の先行きが不透明なことだと舛添氏は言う。

「中国・武漢では4月8日に都市封鎖がようやく解除されますが、昨年12月8日に第1号の患者が出てから4ヵ月かかっています。今、感染が拡大しているアメリカや欧州に加え、インドも増えてきた。その次はアフリカでしょう。アフリカは医療体制の整っている国が少なく、収束には時間がかかる。夏から感染が拡大しても終わりが見えるのは12月頃。もしかしたら年をまたぐかもしれません。

世界保健機関(WHO)は、世界中で収束しなければ終息宣言を出せない。アフリカの選手が出場できないと、安倍首相の言う『完全な形での五輪』になりません。

しかし、多くの専門家は新型コロナウイルスのワクチンを作るのに最低1年半、集団免疫を獲得するには2年かかると言っています。となると、1年後に五輪を開催できるという保証はありません。IOCも『WHOの終息宣言が出ていないため、やはり中止にします』とひっくり返す可能性もあるでしょう。

それならば、東京五輪・パラリンピックを『1年後に延期する』と決めるのではなく、ひとまず中止にして、新型コロナ問題が収束した段階で、あらためて開催できるかどうか考えるというのが合理的な判断のような気もします」

後手後手に回った挙句、ようやく延期が発表された東京五輪。しかし、この先も多くの難題が待ち構えていることは間違いない。