平日でも若者でにぎわい、「台湾の原宿」と呼ばれる西門町の午後3時の様子。警戒レベル第3級発令の影響か、まるでゴーストタウンのように静か

"コロナ対策の優等生"と呼ばれてきた台湾で感染が急拡大している。5月初旬までほとんどひと桁台だった一日当たりの感染者数が、5月15日には185人に。その勢いは衰えず、27日には671人の新規感染者が報告された。

台北(タイペイ)市在住の日本人・林 雅恵(仮名)さんはこう話す。

「自宅マンションや勤務先のビルで感染者が出るなど、コロナがグッと身近になりました。飲食店の店内利用はできなくなり、シャッターが下りた店が増え、外食文化の台湾の風景がガラッと変わりました」

そもそも、これまで感染が抑えられていた台湾で急に何があったのか?

「最初はワクチン未接種の中華航空のパイロットからウイルスが持ち込まれたといわれています。そこから台北の高齢者向け風俗店『茶芸館』でクラスターが発生。その利用者が感染を台湾各地へ広げました。

実は5月初旬まで、台湾全体に『国内にいる分には安全』というムードがあり、国内旅行バブルだったんです。平日でも高級リゾートホテルやレストランが盛況になるほど気が緩んでいました」(林さん)

感染拡大を受けて、台湾政府は5月15日、台北市及び新北(シンペイ)市の警戒レベルを「第3級」へと引き上げた。それによって、マスク着用の義務化、レジャー施設の閉鎖などの方策が取られ、マスクをせずに川遊びをしていた11人に合計66万台湾元(約262万円)の罰金が科せられたケースも。

かなり厳しい措置だが、国民は協力に積極的なようだ。

「外出禁止ではないのですが、ほとんどの人が自主的にロックダウン状態にしています。これまでの政府の努力の賜物(たまもの)でしょう。コロナが流行してすぐの水際対策から始まり、マスクやアルコール消毒液の製造、それを公平に行き渡らせる速さ、毎日午後2時に行なわれる記者会見、SNSを駆使して最新情報を国民に知らせる方法など、この1年半の丁寧な対応の積み重ねが信頼につながっています。

今回の警戒レベル第3級発令でも、クラスター追跡のために店舗入店が実名制になったその日に、入店時の手続きをスマホで5秒ほどで完了できるQRコードのシステムをオードリー・タン氏がリリースしました。もしもロックダウンが発令されるのであれば、それが最善の措置なのだと信じます」(林さん)

協力的な国民の動きにより、新規感染者数は減少に転じ始めたが、そんな台湾につきまとうのがワクチン問題だ。中国の影響力が強いWHO(世界保健機関)からつまはじきにされている台湾では現状、ワクチンの入手は難しく、現在接種済みの人はわずか2%ほど。そこに中国は自国製ワクチンを提供して貸しをつくろうともくろんでいるが......。

「現政権下では中国製ワクチンは入ってこないでしょう。蔡 英文(ツァイ・インウェン)総統は独ビオンテック社とのワクチン契約を中国が妨害して破談になったと明言し、抗議の意を示しているし、中央感染症指揮センターの陳 時中(チェン・シーヂョン)指揮官も中国からのワクチン提供を『いらない』と一蹴。

台湾国産ワクチンの開発も進んでおり、台湾大学教授や台湾一の富豪で鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者・郭 台銘氏らが輸入買い入れの働きかけもしています。日本からワクチン提供の申し出もありました。中国製のワクチンがなくても、マスク不足の不安と混乱が一気に解消された昨年のように解決されるだろうという安心感があります」(林さん)

そんなに信頼できる政府で正直うらやましい......!