海自もがみ型護衛艦。現在8隻が就役中。基準排水量3900t、全長133m、最大速力30ノット、武装は62口径5インチ砲から、17式艦対艦ミサイル4連装筒を2基、短魚雷も搭載。対潜ヘリSH60Kを1機搭載。まさに何でもこなせるフリゲート艦(写真:柿谷哲也) 海自もがみ型護衛艦。現在8隻が就役中。基準排水量3900t、全長133m、最大速力30ノット、武装は62口径5インチ砲から、17式艦対艦ミサイル4連装筒を2基、短魚雷も搭載。対潜ヘリSH60Kを1機搭載。まさに何でもこなせるフリゲート艦(写真:柿谷哲也)
去る2月20日、オーストラリア政府が豪海軍増強調達計画を発表した。3000~5000tクラスの汎用フリゲート艦11隻を海外から購入するという。そこには、我が国の海上自衛隊が運用開始している「もがみ」型護衛艦の名もある。

その他には、ドイツのMEKO200型フリゲート、韓国の大邱級フリゲート艦、スペインのALFA3000の名が上がる。予算は5兆3400億円で、2020年代後半から11隻を導入する計画だ。

突如始まった"フリゲート艦ワールドカップ豪大会"。一体この戦いはどこが勝つのだろうか。「歩くジェーン年鑑」と呼ばれるフォトジャーナリスト・柿谷哲也氏に話を聞いた。

*  *  *

――まず、なぜ豪政府はこの決断をしたのですか?

「豪は長年にわたって、中国に対して甘い政策を取ってきましたが、昨今の習近平政権の中国は、南太平洋諸国に経済協力などを餌に食指を伸ばしてきた。そこで、今回の豪政府の決断となりました」

――しかし、なぜ3000~5000tフリゲート艦11隻という重さと数になったんですか?

「3000~5000tと軽量型フリゲートを主力として検討してるのは、中規模海軍が6000t超えるフリゲート・駆逐艦を揃えてきた潮流とは異なります。

大きい船体に載せる対空レーダーや対水上レーダーも3000t級に載せることができます。ミサイル搭載量や航続距離では劣りますが、これを隻数で補い、小さい港でも接岸し補給することで警戒監視の幅を広げる意図があるようです」

「もがみ」の操舵室。近未来的なグラスコクピットとなっている(写真:柿谷哲也) 「もがみ」の操舵室。近未来的なグラスコクピットとなっている(写真:柿谷哲也)
――南下する中国海軍に対して、数で防御するということですね。すると、海自のもがみ型は有利になるのでしょうか?

「もがみ型に実際乗ってみて分かったのは、これまでの護衛艦に無い近未来的な設備と、既存艦で慣れた使い勝手の良さとのバランスが良いと感じました。

そして艦艇は、多く造れば造るほど洗練されていくことは米海軍のアーレイバーク級駆逐艦を見れば分ります。もがみ型は、発展型FFM(対潜防空能力を有し、機雷敷設も可能な多機能フリゲート艦の意味)として今後20隻以上、建造されるので期待できます」

「もがみ」の艦尾にはウェルドックがあり、ダイバーなどが小型艇で発着艦可能。さらに機雷敷設用装備を有する(写真:柿谷哲也) 「もがみ」の艦尾にはウェルドックがあり、ダイバーなどが小型艇で発着艦可能。さらに機雷敷設用装備を有する(写真:柿谷哲也)
――ならば、日本は有利だと。

「いいえ。多く造られたという実績でいうと、ドイツのMEKO200がすでに34隻、完成し、豪海軍も導入しました。独が今回提案するのは、MEKO A-200でステルス性を高めたタイプ。豪の要望である拡張性のある船体設計が可能です」

独のMEKO A-200フリゲート艦。ブローム・ウント・フォス社製、南アフリカに売った同型の要目は、満載排水量3590t、全長121m、最大速力28ノット、兵装76mm砲1基、自国開発防空ミサイル、エクゾセ対艦ミサイル8発、短魚雷2基。アルゼンチン海軍も運用中(写真:ブローム ウント フォス) 独のMEKO A-200フリゲート艦。ブローム・ウント・フォス社製、南アフリカに売った同型の要目は、満載排水量3590t、全長121m、最大速力28ノット、兵装76mm砲1基、自国開発防空ミサイル、エクゾセ対艦ミサイル8発、短魚雷2基。アルゼンチン海軍も運用中(写真:ブローム ウント フォス)
――スペインのフリゲートはどうなんでしょう?

「豪はすでにスペインから強襲揚陸艦2隻を購入しています。豪はかつて政権交代で労働党政権へ移行した際に、A4スカイホーク攻撃機を搭載していた空母を手放し、スクラップとして中国に輸出しました。その後アメリカから中古で買った揚陸艦2隻を、ヘリ空母として改造していました。

しかし、その運用と旧さに限界が来ました。そこでスペインから2隻購入したわけです。いまのところ国防省は否定していますが、空軍がF35Bを導入し、この艦に載せることができる可能性はあります」

――そのスペイン&豪のコンビがうまくいけば、11隻のALFAフリゲートと共に強力な揚陸艦隊となり、対中国抑止には効果的なんでしょうか?

「強襲揚陸艦の護衛にALFAを当てることはあると思いますし、豪海軍はイージス艦を持っています」

スペイン、ALFA3000フリゲート艦完成予想図。満載排水量3500t~4000t。全長104m。76㎜砲1基、対艦ミサイル8発、16セルVLSに対空ミサイル、3連装魚雷発射管2基。哨戒ヘリ1機搭載可能(写真:ナバンティア) スペイン、ALFA3000フリゲート艦完成予想図。満載排水量3500t~4000t。全長104m。76㎜砲1基、対艦ミサイル8発、16セルVLSに対空ミサイル、3連装魚雷発射管2基。哨戒ヘリ1機搭載可能(写真:ナバンティア)
――では、海自の強烈なライバルとなり得る韓国はどうなんでしょう?

「大邱級はもがみ型より一回り小さい3500tです。おそらく韓国は大邱級より大きく、一番艦が今年秋に就役する忠南級4300tを提案するはずです。

両艦とも絶対に日本製よりも安いので、搭載するセンサー、武器類に豪は予算を掛けられるメリットがあります。また、電気推進とガスタービンエンジンのハイブリッド式で燃費が良く、さらに静粛性が高いので、敵潜水艦から被探知を防げます。

しかし何と言っても、今、全世界に向けてイケイケの武器輸出国となった韓国人ビジネスマンの存在が日本にとって最も脅威です」

――韓国は現在、世界第9位の武器輸出国であり、2022年には173億ドル(約2兆8000億円)とすさまじい売上を上げています。日本は世界第7位、約13億ドルの武器輸入国です。勝負はあったんでしょうか......。

しかし豪は今回、最初に3隻購入して、残り7隻は現地生産をする予定です。これは日本にとって有利にならないのでしょうか?

「日独は造船所のドックに余力が無いため、豪の希望する日程に合せられるかがひとつの問題です。一方で韓国は、中国、日本の造船受注の巻き返しで、造船所に余力があり、韓国が有利なのではないでしょうか......」

韓国は大邱級フリゲートを豪が選出している。満載排水量3600t、全長122m。建造費は1隻340億円だった。ちなみに、海自新型FFMは、2028年度配備予定の建造費が1隻873億円。韓国の安さ爆発である(写真:柿谷哲也) 韓国は大邱級フリゲートを豪が選出している。満載排水量3600t、全長122m。建造費は1隻340億円だった。ちなみに、海自新型FFMは、2028年度配備予定の建造費が1隻873億円。韓国の安さ爆発である(写真:柿谷哲也)
――やはり、韓国強し!

「スペインは実艦が無いのが弱みで、独は建艦能力に難があり、脱落する可能性はあります」

――すると、決勝は日韓決戦になる!?

「韓国はすでに世界を相手にする武器輸出国で、国家規模の武器商人です。対する日本は平和国家で、作る武器は高価格かつオーバースペック。モノはいいが、馬鹿丁寧な仕事が仇(あだ)となる可能性があります。日本に一縷(いちる)のチャンスがあるとすれば、日豪安全保障協力という『仲間のよしみ』ぐらいでしょうか」

――韓国が勝利し、日本は敗退か......。独、スペインの逆転はないですか?

「独は建艦能力に問題がありますが、MEKOA‐200はすでに南アフリカとアルゼンチンでの運用実績があります」

――なんとか独が韓国に勝てるのか......。

「豪がスペインに『すでに購入実績のあるギリシャと同じ値段にしてくれ』と値切った場合、スペインの復活はあります。しかし、独は国家予算が乏しいアルゼンチンに売った実績から、安価で提供をすることを示しています。だから、独は大幅な値引きでスペインに対抗できます。

豪海軍は浮いたコストで、高価な高性能レーダーとセンサー、さらに強力な武器を調達できます。豪の今回の買い物に関しては、独が値引きして安価になったMEKOA‐200に、高価なレーダーや武器を搭載するのがベストチョイスだと考えます」

――しかし、世界武器市場は混沌としていますね。韓国は国家規模の武器商人ですが、あの大統領が最強で最恐のビジネスマンになった時、ベストチョイスが変わってきます。

それはトランプが次期大統領になった場合の米国です。「今、米国が豪用に作っている原潜は売ってやらねえぞ」と平気で言ってくる。そうした場合、米国の大逆転は......?

「あります。『7000tとちょっと大きいがいいのがある。コンステレーション級フリゲートを作っているから、これを買いな』と言ってくるかもしれませんね」

――「メイクアメリカグレートアゲイン@フリゲート」となるのである。日本政府が目指そうしているであろう武器輸出は難関なのだ。

小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊(近刊)』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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