三江線で使われたキハ120。客が車両最前部まで入れるため、運転士や車掌の気分が味わえる人気車両だ。

島根を代表する河川、江(ごう)の川に沿って広島・三次(みよし)-島根・江津(ごうつ)間の108.1kmを3時間半かけて結ぶ、JR三江(さんこう)線が3月31日をもって88年の歴史に幕を下ろした。

廃止直前の最後の日曜となる25日、本誌鉄オタ記者が乗り納めに現地へ。最初に乗ったのは江津12時34分発三次行き。2両編成の列車がホームに入った時点で空席なし、つり革の空きも残りわずかだ。

実はこの列車は直通運転している山陰本線の浜田始発で、ダイヤを熟知する鉄オタは浜田から乗車して席を確保していたのだ。かなりの混雑だが、次の列車は3時間後。なんとか体をねじ込んだ。

江津から三次までの直通列車は一日わずか3往復。日常的に使うには不便すぎ、廃止発表前は1両に客が数人という状態だったが、この日は鉄オタ、バスツアーで来た団体客、初めて乗ったらしい家族連れなどで車内はカオス状態だった(廃止発表後、乗客が激増し、3月17日より4往復に増えていた)。

日本の全駅で乗下車した伝説の鉄オタ・横見浩彦氏は三江線の魅力をこう話す。

「ひとつの川に沿ってずーっと走る列車って、日本ではここだけ。とにかく景色が最高でした。あとは“天空の駅”といわれる宇都井(うづい)も外せないスポットでしたね」

線路は江の川を挟んで住宅地と反対側の崖沿いにあり、江津を発車した列車は川を左手に見ながらゆっくり進む。運転台の速度計は30キロちょい。客のほとんどは記者と同じように「乗ること」が目的で、途中駅で降りる人はほとんどいない。およそ2時間半立ちっぱなしで、記者は宇都井で下車。天空のホームから見る里山の景色は見事でした。

次の列車まで2時間半。せっかくなので116段の階段を降りて地上へ。駅前の小屋では鉄道グッズやまんじゅうが大人気で、道路は駅を撮影しようとする観光客の車で渋滞。

17時37分、再び三次行きの列車へ。相変わらず空席はないが、もう当日中に東京へは戻れない時間だからか、さすがに立っている人は少ない。1時間ほどで終点の三次へ到着。ホームに降りた瞬間気が抜けた。よく考えたら6時間以上座っていなかった。

印象的だったのは、線路沿いの地元住民が列車に向かって手を振る姿。都会じゃまず見られない。こちらも思わず手を振り返してしまった。

このエリアではほかにもJR木次(きすき)線や芸備(げいび)線の一部区間の廃止が噂されている。乗りに行くなら今のうちだ。