東急池上線を走る7700系。この編成は車両前面がまるで歌舞伎の隈取のように見えることから、鉄道ファンの間では「歌舞伎塗装」と呼ばれ人気が高い

8月21日、岐阜県の養老線管理機構が、東京急行電鉄(東急)池上線・多摩川線を走る7700系を15両、総額6億1000万円で購入すると発表した。

実はこのケースだけでなく、東急の中古車両は全国各地で活躍している。東は青森の弘南(こうなん)鉄道から西は島根の一畑(いちばた)電車まで、その数13社。なかには伊豆急行(静岡)や上田電鉄(長野)のように東急のグループ会社もあるが、ほとんどは資本関係のない別会社だ。

なぜ東急の車両は引っ張りだこなのか? 鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が解説する。

「前提として、地方のローカル私鉄は1両1億から2億円する新車を購入する余裕がなく、その半額程度で大手私鉄の中古車両を購入することが多い。そのなかで東急の車両が多い理由は、まず車体が長持ちするステンレス製で、台車や内装が新品に交換されているなどメンテナンスがしっかりしていることです。

そして、一番のポイントは車両の長さです。JRや多くの大手私鉄は人がたくさん乗れるよう、1両の長さが20mの車両が多いんですが、東急は18m車も多い。乗客が少ない地方私鉄は18m車で十分で、鉄道設備もそれに合わせて造られているので、20m車だとカーブで車体をこすったり、車庫に入りきらない可能性があるんです」

しかも、今回養老鉄道が導入する7700系は特に使い勝手がいいとか。

「売却先の私鉄で走らせるためには改造が必要です。例えば、東京で8両編成で走っていたものなら、短くするためにパンタグラフやモーターの位置を調整する必要があります。その点、7700系は都心では珍しい3両編成で、地方ではちょうどいい長さ。当然、改造費用も安く済みます」(梅原氏)

20年来の東急線ユーザーで、"鉄オタマネージャー"として有名なホリプロの南田裕介氏は、この改造が見どころなのだと話す。

「ワンマン運転に対応するために運賃箱が置かれるなど、どこまで変わるか楽しみです。また逆に、何が残るかもポイント。例えば、弘南鉄道を走る元東急7000系は、つり革に『東急百貨店』や『東横のれん街』の広告がそのまま残っているんです! 弘前(ひろさき)の人には関係ないことですが、オールドファンは大喜びです」

ただし、7700系の"出物"は今回で最後。東急は18m車の入れ替えが一巡し、しばらく中古車両が出る予定はないようだ。

「そこで今、注目されているのが日比谷線を走る東京メトロ03系と東武20000系です。いずれも18m車ですが、東京五輪に向けて駅にホームドアを設置することになり、それに合わせて日比谷線からの引退が決定。さっそく熊本電鉄が購入するとの報道がありました」(前出・梅原氏)

東京の地下を走っていた日比谷線の車両が、あちこちのローカル線で活躍。なんともロマンのある話だ。