中華街構想では「南門」が設置される予定の商店街の南端。ここからもう少し南へ歩くと、日本最大級の遊郭街として有名な飛田新地がある

最近、新聞などで散発的に報じられた「西成(にしなり)中華街」なる構想。日雇い労働者の街として知られる大阪・西成が、なぜ中華街に......!?

言い出しっぺは、不動産会社社長の林伝竜(りんでんりゅう)氏(54歳)だ。31歳で来日した林氏は、ラーメン店での下働きなどを経て、2005年に"歌える居酒屋"を開き大成功。

シャッター街化しつつあった商店街で、後継者のいない店を買い取っては知人に貸し、中国人女性が接客するカラオケ居酒屋を次々とヒットさせた。後発の参入者も続出し、今では西成に中国人経営のカラオケ居酒屋が約150軒もあるという。

しかし、それでは飽き足らない林氏は熱くこう語るのだ。

「22年には星野リゾートの高級ホテルが近くにオープンし、25年には万博があります。西成は関西国際空港から南海電車で一本という立地。地下鉄で天王寺までひと駅、難波(なんば)までふた駅、梅田へも13分で行ける。今はイメージが悪いかもしれませんが、一変する可能性を秘めた町です。

ここに、神戸や横浜に負けない本格的な中華料理の店を集めたい。カラオケ居酒屋を少しずつ中華料理店に変え、ゆくゆくは100軒ぐらいに。東西南北に十字に広がる西成の商店街にはアーケードがあるから、雨の日も大丈夫。これは神戸や横浜にもない特長です。東西南北の入り口に中華門(牌楼)をつくれば、『何があるのかな?』とたくさんお客さんが入ってきます。

私の店のある商店街のアーケードも古くなって改修が必要です。補助金も出るようですが、足りない分のうち何百万円かは私が提供したいと思っているんです。その話し合いをしましょうと皆さんに提案しようと思っています」

仕掛け人の林伝竜氏は「ゆくゆくは、中国の舞台を見せる劇場やお寺もつくりたい」と前のめり。すでに政治家にも働きかけているという

林氏はさっそく行動に移す。

「賛同してくれる中国出身の経営者仲間と一般社団法人『大阪華商会』をつくりました。中心メンバーは7人。ふたりは帰化して日本人になっていて、残る5人も私を含め、永住権を持っています。大阪維新の会にも話をしたら、昨年末の府議会で中華街構想について話してくれました」

だが、この唐突なスピード感に地元商店主たちは困惑。「西成と中国なんて縁もゆかりもない」「林さんの中華料理店でさえ客が入ってない」「マスコミに言う前に説明してほしかった」「ひと言で言うと不安」などの声が聞かれた。

今や西成にはカラオケ居酒屋が約150軒もあり、そのほとんどが中国人経営だという。ただ、さすがに供給過多の飽和状態になっているようだ

飛田本通(とびたほんどおり)商店街振興組合の村井康夫理事長もこう言う。

「林さんのことは昔から知っているし、気持ちはよくわかります。もっとお客さんを呼んで、きれいでにぎやかな商店街にしたいというのはわれわれも同じ。しかし、だからといって突然、中華街をつくろうと言われても......。

林さんは『門があれば、中華街という名前じゃなくてもいい』と言っているようですが、中華門ができたら、それはもう中華街でしょ(笑)。みんなそれぞれ親の代、その親の代から引き継いだ商売の流れがある。それを無視して一気に中華街というわけにはいかないんです。

林さんも反対意見が多いとわかっているから、アーケードの改修にお金を出してなんとか賛同してもらおうとしているんじゃないですか。本来はそこを説得していくのが筋なんですが」

まさに平行線......。それでも、林氏はこう力説する。

「私は西成の町に育ててもらったから、恩返しがしたい。人がたくさん集まる町に変えていければ、商店街の経営者もお客さんが増えて喜ぶ。地価もぐっと上がるはずです」

林氏の熱い気持ちは記者にも伝わってきたが、地域の人々との本格的な話し合いはまだ始まってもいない。夢は実現するのだろうか?