『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、コロナ後の世界に起こる変化について語る。

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新型コロナウイルスの爆発的流行は、われわれの社会システムがいかにもろいか、そして時に個人の行動がいかに全体に大きな影響を与えるかを教えてくれます。一個人の無責任な行動が多くの人の感染リスクを高める、一個人が流した(あるいは拡散した)ささやかなデマが全体に悪影響を及ぼす――。

あらためて考えてみれば、この社会は普段から虚実ない交ぜの状態で、縦糸・横糸を重ねて編み込むことでなんとか秩序を保ってきたといえます。ところが、一箇所でもその糸が切れると、そこからどんどんほころびが大きくなってしまうのです。

これから数週間、いや数ヵ月(もしかしたら1年以上)の間、われわれ人類はほぼ全地球規模で、社会の一員として"責任ある行動"を強いられることになるでしょう。経済は相当冷え込み、生活にも大打撃を及ぼすことは間違いありませんし、まだ先のことを考える時期でもない。

ですが、こういった状況はある意味で、社会に多くの"副産物"をもたらすのではないかと思っています。逃げ切り世代は"コロナ以前の世界"への回帰を望んでいるかもしれませんが、特に若い人たちの意識はかなり覚醒するのではないでしょうか。

平穏な日常が破壊され、身の回りの優先順位がシャッフルされた状態で「何が大切なのか」と考えを巡らせれば、社会システムのいびつさが見えてくる。現代社会が感染症に対して無力であるという点のみならず、自分たちがいかに環境に負荷をかけてきたか、それがバックラッシュして自分たちの暮らしをどう脅かしているか......。

断片的な情報は、やがてモンタージュのようにつながっていくはずです。やや思い切って予言めいた言い方をすれば、世界中にグレタ・トゥンベリさんのような視点を持つ若者が増えることになるかもしれません。

心ある大人たちは、強迫観念に駆られるように訴えかける彼女をたしなめてきました。グレタ、君の気持ちはわかるが、世の中はそう単純なものではない。まずは経済の基礎を学んでから発言をしなさい――そんな"大人の小言"を、実際には多くの若者も「一理ある」と受け止めていた節もありました。

しかし"コロナ後の世界"では、それも一変するかもしれない。少なくとも、「今すぐ変わらなければ」と必死で訴えるグレタさんの言葉に耳を傾ける人は今よりもずっと多くなるでしょう。

環境問題だけでなく、あらゆる格差やゆがんだ社会システムを待ったなしで変えていく必要がある、これ以上ごまかすわけにはいかない、という大きなうねりが生まれるような気がしています。

ただし、それはデモや集会に人々を動員して群衆のパワーで政治を動かす"オールド左翼型"の運動ではありません。あくまでも個人個人のリアルな感覚、リアルな危機感に基づく消費行動や日常の振る舞いによって、社会の色合いを変えていくようなイメージです。

オールド左翼の目標が革命なら、こちらの目標は「覚醒」。誰かと連帯するよりも、まず自分の意思で自らのライフスタイルを変えることから始めるダイレクトアクションです。今まではごく一部の"意識高い人"だけのものだった言動が、コロナ後の世界では相当に広がっていくかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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