最南端から見た三浦半島。当時は南から北に向かって風が吹いていたといい、「異臭」の通報もその流れに沿って広がった

「ゴムが焼けたようなにおいがする」

三浦半島の南端に位置する神奈川県三浦市の住民から119番通報があったのは、6月4日の20時過ぎだった。

三浦市・横須賀市を管轄する横須賀市消防局の担当者が、異臭騒ぎについて話す。

「一報があった20時過ぎから、約3時間にわたって『ガスのようなにおいがする』『シンナーや塗料のようなにおいがする』『何かが焼けているようなにおいがする』など、さまざまな表現での通報が150件ほどありました。なかには異臭で気分が悪くなり、病院に搬送された方もいます」

こうした通報は、三浦市から徐々に北上するような形で半島中央部の横須賀市に移動。そして、横須賀市の北西に位置する逗子市でも22時5分頃に通報があったという。つまりこの時間帯には、三浦半島のほぼ全域で異臭が漂っていたことになる。

「異臭の原因は不明です。タンカーのガス抜きなどで異臭がすることはありますが、その場合は10分程度の短時間です。これだけ広範囲で長時間にわたる異臭は初めてです。『ゴム』『ガス』『シンナー』など、異臭の表現がさまざまだったことも今までにありません」(横須賀市消防局担当者)

こうした通報を受け、横須賀市の海上保安部も異臭調査を行なったが......。

「船舶に積まれた油が海に流れ出し、揮発してそのにおいが流れるといった原因が考えられましたが、付近を航行する船舶に確認した結果、特に事故はありませんでした」

では、この異臭の原因はなんだったのだろうか?

立命館大学環太平洋文明研究センターの高橋学特任教授(災害リスクマネジメント)が解説する。

「活断層が動いて地震が発生する際、どんなことが起きるのか。それを知るために、円柱形の岩盤を人工的に圧縮する実験に立ち会ったことがあります。

その結果、(1)X字形に割れ目が入る、(2)割れる少し前に電磁波が出る、(3)コゲ臭いような、ガス漏れっぽいような、言葉に困るようなにおいがする、(4)岩盤が破裂する直前に光が出るということがわかりました。

今回の三浦半島の異臭騒動では、通報した人々が『ゴムが焼けたような』『ガスのような』『シンナーのような』など、異臭をさまざまな形で表現している。岩盤が割れたときに発生するにおいの特徴に似ているので気になります。

三浦半島には北米プレートの下にフィリピン海プレートが沈み込んでいる『相模トラフ』という場所があります。ここで北米プレートが割れるか、跳ね上がると地震になる。もしかすると今、三浦半島の地下の北米プレートが割れているのかもしれません」

相模トラフで起きた代表的な地震といえば、1923年の関東大震災だ。このクラスの地震が起こるのか?

「異臭が三浦半島だけならば、三浦半島直下型地震で収まるかもしれません。しかし、房総半島の南部でも同じような異臭が発生していたら、相模トラフ由来の大きな地震になる可能性があります」

原因不明の異臭が岩盤の割れによるものでないことを祈りたいが、一方で地震への備えも忘れずにいたい。