「地球沸騰化」が進むなか、脱酸素を求める声はますます高まり始めており、排出側として糾弾される日本にも対応が迫られる「地球沸騰化」が進むなか、脱酸素を求める声はますます高まり始めており、排出側として糾弾される日本にも対応が迫られる
世界の平均気温の高さは、過去最悪だった2019年を超えて、今年さらに一段階酷いレベルへと突入した。これを受けて国連のグテレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり地球が沸騰する時代に突入した」と発言した。

この7月、東京都心でも最高気温が35度を超える猛暑日が13日と過去最多を記録した。今年の暑さは「災害級の酷暑」と形容されている。実際、日中にうかつに外出しようものなら、命にかかわる可能性があるレベルになってきた。

日本も酷い状況だが、実は世界ではもっと酷いことになっている。夏の最高気温が40度台から50度に達する国や地域が、グローバルサウス中心に拡大しているのだ。

■世界でますます高まる脱炭素の声

災害としては熱波による死者に加え、集中豪雨により国土の3分の1が水没するほどの被害が出たり、長期にわたる山火事で広大なエリアが焼け野原になったり、農作物が作れず砂漠化が広がるなど、日本とはまた次元が違う被害が起きている。おそらくこれから5年から10年以内には、食糧危機も経済の重要なキーワードにあがってくるだろう。

このタイミングで「地球沸騰化」という新しいキーワードが登場したことは、国際的な枠組みにおける二酸化炭素排出へのペナルティが今後一層強まることを示唆している。

「脱炭素なんて言っていてもガソリン車がなくなることはないよ。なにしろ発展途上国は化石燃料に頼るしかないのだから」

そんな意見を耳にすることがあるが、日本人は認識が甘い。今、気候変動の被害を最も受けているのが発展途上国だ。今年の夏のような状況が繰り返し起きれば、必然的にグローバルサウスから先進国のCO2を糾弾する声が次々と上がるようになる。

二酸化炭素排出量の大幅削減と産業の成長は、二律背反してしまう点が多いのが現状だ二酸化炭素排出量の大幅削減と産業の成長は、二律背反してしまう点が多いのが現状だ
EUをひとつの地域として数えると、温室効果ガスは排出量の多いトップ10の国や地域で世界全体の4分の3を排出している。ツートップの中国とアメリカが全体の45%だ。

「こうした国は、早く世界平均並に排出量を減らせ!」

という声は今後、日増しに高まっていくだろう。

そして我が国は、糾弾される側に入っているのだ。

一人当たりCO2排出量のランキングで見れば、圧倒的に多いのが産油国、次いでアメリカ、カナダ、オーストラリアが突出していて、ロシア、韓国が世界平均の2.5倍。最後に日本と中国が世界平均の2倍弱につけている。グローバルサウスから見れば、

「中国以上の7か国がとにかく何とかしろ!」

というのが本音だろう。EUはこれら7か国と比べればはるかに優等生だから、グローバルサウスの側につく。では、日本はどうするべきなのだろうか?

■電力不足の日本に打つ手なし!?

日本には経済的な側面で3つの問題がある。福島の原発事故のあおりで、日本の電力はほぼほぼLNG火力に不足分を頼るようになっていて、今現在はそのコストが上昇しているのだが、本質的な問題は電力量がひっ迫していることだ。

世界経済ではこの先、サマータイムは夜行性に移行していくだろう。暑い日中は家に籠って、生産性の高い仕事は夜間に行う。しかしそのためには今よりも電力が必要になる。その資源が日本にはない。これがひとつめの大問題だ。

そしてふたつめが、電力が足りないせいで結局のところ、本格的なEV化に舵(かじ)を切ることができないという問題だ。今、世界ではEVとプラグインハイブリッド車が年間1000万台以上売れている。中国やヨーロッパ、カルフォルニアなど先進地域では、新車に占めるEVのシェアは15~20%だ。一方で我が国はというと、トヨタのEVとプラグインハイブリッドの世界シェアはわずか1%と大幅に遅れている。

日本がEV普及に出遅れている裏にも電力不足という切実な事情がある日本がEV普及に出遅れている裏にも電力不足という切実な事情がある
3つめの問題は、脱炭素をやるといっても、排出量の大半は産業分野が産みだしているという点だ。発電と運輸を合わせて約6割、工場と店舗、オフィスが25%という具合で、二酸化炭素を削ろうとすると日本の産業が止まってしまう。

これまではこの状況をそれでも世界が許してくれていた。国民は電気代が値上がりしてひいひい言っている状況だが、それでも電力の供給制限が起きているわけではない。

ところがこの先、世界中からの声は強まる一方だ。

「もっと炭酸ガスを減らせ。もう電力は使うな。使いたいんだったら太陽光にしろ」

と言われるのだが、日本には太陽光設備を増やせる場所はほとんどない。危険な山の斜面を切り開いて、豪雨災害のリスクを増やす以外に道はなくなってくる。

今のところ頼りになるのはアメリカと中国だ。彼らのほうが炭酸ガスの放出量については多いので、日本よりも矢面に立って世界の非難の声を受けてくれる。ただ問題は、彼らが本格的に方針転換した場合だ。アメリカも中国も砂漠という資源があるので、実はその気になれば炭酸ガスの排出は大幅に減らせるだけの余力がある。

温暖化対策は「後ろにずらせばずらすほどその後が大変になる」と、もう20年以上言われ続けてきた。残念ながら日本はその「大変」な状況に陥ってきたようだ。この夏の酷暑は、その序章に過ぎない。

●鈴木貴博 
経営戦略コンサルタント、百年コンサルティング株式会社代表。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年に独立。未来予測を専門とするフューチャリストとしても活動。近著に『日本経済 復活の書 ―2040年、世界一になる未来を予言する』 (PHPビジネス新書)