大一番で出番はなかったがマルセイユで着実に実績を積んでいる酒井宏樹

日本代表の右サイドバック、酒井宏樹があと一歩のところで“大魚”を逃した。

酒井を擁するマルセイユ(フランス)は、今季UEFAヨーロッパリーグ(EL)で決勝進出。2001-2002シーズンに小野伸二がフェイエノールト(オランダ)でUEFAカップ(ELの前身)を制して以来、日本人選手としては2人目となる快挙達成に挑んだが、スペインの強豪、アトレティコ・マドリードに0-3で敗れた。

現在、ヨーロッパにはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)とELの2大タイトルがあり、各国の強豪が集い、覇を競っている。仕組みの上ではCLの下に位置づけられるELだが(スペイン、イングランド、ドイツのクラブなら国内リーグの1~4位がCL、5~6位が翌シーズンELに出場)、CL同様、ヨーロッパでの注目度は非常に高い。

過去、奥寺康彦を筆頭に数多くの日本人選手がヨーロッパのクラブでプレーしてきたが、CLを含めて欧州の舞台で決勝に出場したのは小野ただひとり。選手自身の実力もさることながら、運や巡り合わせも必要なELファイナルは、そう簡単に立てる舞台ではないのだ。

そんな貴重な権利を手にした酒井だったが、結果的に4月に負った左ヒザのケガが響き、晴れの舞台に立つことができなかった。クラブとしてビッグタイトルを逃したばかりでなく、酒井個人のキャリアにおいても残念な結果となった。

本人によれば、「前日練習まではどうなるかわからず、(出場の可能性は)半分半分みたいな感じだった。やる準備はできていた」というが、結果はベンチスタート。途中出場の機会もないまま試合を終えたが、ケガで3週間ほど練習ができていなかったことを考えれば、「納得している」とのこと。

傍目には極めて悔しい結果に終わった試合の後にもかかわらず、酒井が思いのほかサバサバとした表情で取材エリアに現れたのは、恐らくマルセイユにおける自身の立場も影響しているのだろう。

今季、国内リーグとELを並行して戦ってきたマルセイユにあって、その位置づけは大まかに言って「国内リーグ要員」。実際、昨年9月から12月にかけて行なわれたELグループリーグでは全6試合中3試合にしか先発出場していない一方で、同時期の国内リーグには全19試合中16試合に先発出場し、残る3試合もベンチ入りしている。

だからこそ、「試合に出られる時はチームに貢献したいと思ってやっているので、チームとしてここ(EL決勝)まで来られたことはよかった」としつつも、「(ELの)グループリーグはあまり出ずに、(国内の)リーグ戦に出ていたし、そう考えるとこれ(EL決勝に出られなかったこと)も運命なのかなと思う。ケガをする時はするので」と、納得の様子を見せたのだろう。

いいサッカー人生を送れている証拠だと思う

同じフランスの強豪であるパリ・サンジェルマンなどと違い、取れるタイトルはすべて狙うというほどの戦力を有していないマルセイユにとって、国内リーグ重視で長いシーズンを戦うのは自然なこと。いわば、まさかの決勝進出だったマルセイユに対し、アトレティコは過去4シーズンで2度もCLで準優勝しているように、本気でヨーロッパタイトルを狙っていた。経験からくる心構えに差があるのは明らかだった。

「みんな、いいプレーをしていたし、気持ちも入っていたけど、やっぱり(チャンスでゴールを)決められるかどうかが試合を分ける。アトレティコとは経験の差がかなり大きかった。自分も含めて、うちにはこういう大舞台にまだ慣れていない選手も多いので、先制されて焦ってしまい、難しい状況になってしまった」

淡々とし過ぎるほど冷静に試合を振り返り、話を続けたが、最も残念そうに言葉を発したのはマルセイユファンに話が及んだ時だった。

酒井は「ファンは常に自分たちの後ろにいてくれたし、今日の試合に関しては町中がすごく盛り上がっていたので、笑顔で帰らせてあげたかったが、それができなくて非常に残念」と語り、ファンに向けて来季への決意表明をするかのようにこう続けた。

「ここでまたみんな(気持ちが)落ちてしまうとファンは去って行ってしまうし、ここで落ちるようなチームだったら、もう1回、上へ行くことはできない。しっかり土曜日の試合(国内リーグ最終節)に勝って、いいチームだということを証明したいと思う」

その言葉通り、マルセイユはEL決勝の3日後に行なわれた5月19日の国内リーグ最終戦に勝利。酒井も先発フル出場し、有終の美を飾った。

結果的に最終順位は4位にとどまり、残念ながら3位までに与えられるCL出場権を逃しはした。それでもEL出場は確保。今季の悔しさを晴らすチャンスを得た。

ドイツからフランスへと戦いの舞台を移し、2年。すっかりフランスの名門クラブに馴染んだ様子の酒井は「マルセイユに来て、ほんと1試合1試合楽しめている。この感覚でいいチームと試合をできることは、いいサッカー人生を送れている証拠だと思う」と笑顔だった。

充実のシーズンを過ごし、来季を前にしばしの休息を取るが、その先に待っているのは言うまでもなく、まずはW杯ロシア大会である。

(取材・文/浅田真樹 写真/ゲッティイメージ)