「目標といえば、今年に限ったことではないですが日本の馬で凱旋門賞を勝ちたいですね」と語るルメール騎手 「目標といえば、今年に限ったことではないですが日本の馬で凱旋門賞を勝ちたいですね」と語るルメール騎手

JRA所属4年目にして頂点を極めたクリストフ・ルメール、39歳。

年間最多勝記録更新のプレッシャー、昨年のベストライド&最悪の騎乗などを語った前編に続き、インタビュー後編では、その競馬哲学と知られざる素顔、そしてアーモンドアイの挑戦が噂される凱旋門賞について語る。

■息子と娘には「すごく厳しいです」

障害競走のジョッキーを父に持ち、99年にフランスの騎手免許を取得したルメールだが、デビューからずっと順風満帆だったわけではない。ここからは海外を転戦した下積み時代やバーバラ夫人とのなれそめ、さらには2児の父としての意外な一面を聞くことができた。

──ヨーロッパの騎手がヨーロッパ内であちこちの国に騎乗しにいくのは珍しいことではありませんが、ルメール騎手は若い頃から積極的に海外で騎乗されていますね。アメリカ、ドバイ、スウェーデン、シンガポール、さらにはインドでも騎乗されていたとか。

ルメ 20歳ぐらいの頃、僕がフランスでお世話になっていた厩舎にインド人のオーナーが馬を預けていまして、彼が「冬のシーズンオフの時期、インドに行ってみないか?」と声をかけてくれたんです。

インドはイギリス色が強いので、フランス人で行ったことのある騎手は少なかったのですが、周囲から「ぜひ、行ったほうがいい」と言われたこともあってチャレンジしたんです。

──現地の生活は大変ではなったですか?

ルメ そのオーナーが世話をしてくれたおかげで、すごく困ったことはありませんでした。当時のインドはまだまだ階級制度が根強く残っているなか、右からはプアな人、左からはリッチな人が話しかけてきますし、それぞれに教養と哲学もあるのでカルチャーショックを受けました。

でも、このときに活躍できたおかげでフランスでも認められるようになったし、それが今につながっています。自分には欠かせない経験でしたね。

──日頃から奥さまのバーバラさんがものすごく支えてくれるとお話しされていますが、その頃にはもう出会っていたんですか?

ルメ 出会ったのはもう少し後ですね。バーバラのお父さんも騎手で、彼女は競馬場のフォトグラファーだったのでなんとなくは知っていました。あるとき、レストランで近くのテーブルになったので、一緒にいた共通の友人を通じて紹介してもらったんです。

──すぐにお付き合いを?

ルメ はい(笑)。そこから結婚までもそんなに時間はかからなかったです。

──プロポーズはどのようにされたんですか?

ルメ タイのビーチリゾートで「僕と結婚してくれる?」と聞きました。そうしたら即答で「イエス」と(笑)。彼女も競馬ファミリーで育っているので僕の仕事についてもとても理解し、常に励ましてくれました。

普通の家庭で育った女性では、なかなか騎手の仕事や生活スタイルにはなじめないと思います。そういった面での心配はほとんどなかったのはよかったです。

──15年に日本の通年免許に挑戦するときも背中を押してくれたそうで。

ルメ はい。「あなたが行くところに一緒に行くわ」と言ってくれました。それ以外にも普段から子供たちのことをよくケアしてくれています。普通の子供なら、土日は「動物園に行きたい!」とか言うと思うのですが、そのあたりも理解してくれています。

──お子さんは、息子さんと娘さんですね。"パパ・ルメール"はとても優しそうですね。

ルメ いえ、実はすごく厳しいんですよ(ニヤリ)。

──本当ですか? 普段、紳士的なルメール騎手からは想像できないのですが。

ルメ 今、息子が13歳、娘が11歳なんですが、基本的な挨拶やお礼ができないときは、たとえ人前でもかなり厳しく怒ります。オハヨウゴザイマス、コンニチハ、アリガトウ、イタダキマス、ゴチソウサマ。これが言えないとダメです。でも、それ以外は優しいです。

──家族の中ではどなたが一番日本語がうまいですか?

ルメ バーバラがすごく上達しているんです。僕もプライベートレッスンをつけているんですが、彼女にはかなわないかな。

──おそらくルメール騎手としてはできればフランス語、もしくは英語でJRAの職員や私たちマスコミと会話したいですよね?

ルメ いえ、日本に来たからにはそういうことはないです。ただ、レース後などはテンションも上がっているので、何度も質問をされると、いい答えや正しい言葉が思いつかないことがあります。

それで言いたいことが伝わらず、たまにストレスになっているかもしれません。そんなときは少し待ってくれるか、もしくは答えのヒントを出して助けてくれるとうれしいです(笑)。

■日本馬はなぜ凱旋門賞で勝てない?

3月にはいよいよクラシックの前哨戦がスタートする。今年もルメールには数多くの有力馬から騎乗依頼が舞い込むことになるだろうが、彼に目標を尋ねると、その口から出たのはやはり「あのレース」の話だった。

──2019年、騎手として目標にされていることはなんですか? 最多勝の記録をさらに更新することでしょうか?

ルメ いえ、新記録はターゲットではなく、あくまで結果の積み重ねです。昨年は一年間がんばったら、たまたま新記録になっただけ。目標といえば、今年に限ったことではないですが日本の馬で凱旋門賞を勝ちたいですね。

──今年はアーモンドアイの挑戦が噂されていますね。

ルメ はい。乗せてもらえるといいですね(笑)。

──ルメール騎手はこれまで日本馬ではマカヒキ(16年/14着)とサトノダイヤモンド(17年/15着)で挑戦されました。いずれも馬場適性が敗因ともいわれましたが、このあたりはいかがでしょうか?

ルメ 適性も少しはあると思いますが、そうはいってもマカヒキは前哨戦を勝っていますからね。これは今だから言えることですが、2頭とも本調子ではなかったのだと思います。

特にサトノダイヤモンドは、前年の有馬記念のときがスーパーカーだとしたら、凱旋門賞では軽自動車みたいな状態でした。全然パワーが感じられず、本当に同じ馬なのかと思うくらいでした。

──適性うんぬんにはそこまでこだわる必要はないと。

ルメ はい。日本の馬のレベルが高いことは世界的にも証明済みです。もちろん遠征競馬になればさまざまなディスアドバンテージはありますが、適性よりもいかに完璧な状態で凱旋門賞を迎えられるかが重要だと思いますよ。

──ズバリ伺いますが、アーモンドアイが完調ならば凱旋門賞を勝てますか?

ルメ (17年、18年の凱旋門賞を連覇した)エネイブルなど相手がいることなので簡単ではないですが、それができると思います。僕は馬を尊重して、いいリズムで、馬の集中力を切らさないように乗るだけです。

──楽しみにしています!

ルメ ハイ、ガンバリマス!

●クリストフ・ルメール
1979年5月20日生まれ、フランス出身。99年にフランスでデビューし、これまでに数多くの欧州のビッグレースを制覇。日本では2002年に短期免許で初騎乗。15年には日本の通年免許を取得してJRAの所属となり、17年には外国人騎手として史上初のJRA全国リーディングジョッキーとなった