レアルにとっての久保は、大勢いる「青田買い」の選手のひとりと語るセルジオ越後氏

期待する気持ちはよくわかる。でも、いくらなんでも騒ぎすぎ。同じ時期にバスケットの八村 塁がNBAドラフトの1巡目指名を受けて話題になったけど、それとはだいぶ中身が違う。今の時点で過剰な期待をかけるのは気の毒だ。

久保建英(たけふさ)のレアル・マドリード移籍が決まった。といっても、1年目は3部相当リーグで戦うBチーム「レアル・マドリード・カスティージャ」に所属し、2年目からのトップチーム昇格、もしくは可能な限りレベルの高いクラブへの期限付き移籍を目指すという。

つまり、新天地はレアル・マドリードであって、レアル・マドリードではない。それなのに、マスコミはすぐにレアルのトップチームに昇格し、試合に出場することが約束されているかのような騒ぎ方をしている。

久保が高い技術を持っているのは確か。18歳でA代表デビューを飾り、先日の南米選手権でもまずまずのプレーを見せた。誰が見ても将来が楽しみな選手だ。

とはいえ、日本代表でもまだ絶対的な存在ではないし、欧州で一、二を争うビッグクラブであるレアルのトップチームでプレーできるかといえば、やはり簡単ではないだろう。厳しい道を選んだなというのが率直な感想だ。

カスティージャが所属する3部相当リーグはプロアマが混在し、80チームが4つのリーグに分かれて戦う。実際の試合は見たことないけど、さすがにJリーグ(J1)のほうがレベルは上だろう。そういう舞台だからこそ、よほどの活躍を見せない限り、アピールにはならない。実際、カスティージャからトップチームに昇格できる選手は毎年ひと握りだ。

また、もしトップチームに昇格できたとしても、例えば今オフに移籍金約130億円で獲得したアザールのようなスター選手とのハイレベルなポジション争いが待っている。常に勝たないといけないチームにあって簡単にチャンスを与えてもらえるかどうかはわからない。

要するに、レアルにとっての久保は、大勢いる"青田買い"の選手のひとり。移籍金もゼロだし、マーケティング面も含めて、大化けすれば儲けものというのが実情だろう。

ただし、目の前にチャンスがあれば、それに挑戦するのはプロとして当然だし、彼の場合は言葉の壁もない。行って損はないと思う。

当面の課題は守備をどう改善するか。FC東京や日本代表では守備の負担が軽かった。下がって守備をするのではなく、カウンターに備えて前線に残る場面も多かった。でも、メッシやクリスティアーノ・ロナウドほどの特別な選手ではない以上、今後の彼はもっと守備の役割を求められるし、それができなければ使ってもらえない。

また、攻撃面でも激しく削られたりしてフィジカル勝負に持ち込まれると厳しい。(中村)俊輔やイニエスタのように、相手のプレッシャーをパスでかわしながら、フリーのポジションでパスを受ける。当面はそういうプレーをしながら、徐々に当たり負けしない体力や筋力をつけていければいいね。

いずれにしても、今季は過剰な期待をせずに温かい目で見守るべき。そして来季、トップチームに昇格できなかったとしても、本人もファンもガッカリする必要はないし、他チームでまた頑張ればいいだけの話。もちろん、レアルのトップチームに昇格して試合に出たら、僕も手放しでお祝いしたい。

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