今年のウインブルドンでは進化したプレースタイルを見せるも、芝の王者・フェデラーに屈した

またしても"BIG3"の壁は高かった――。世界ランキング7位の錦織 圭はグランドスラム5大会連続でジョコビッチ、ナダル、フェデラーに敗北。

いったい、錦織はどうしたら彼らに勝つことができるのだろうか?

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■プレースタイルが進化し、"芝の王者"に善戦!

現地時間7月14日に行なわれたウィンブルドン決勝はまさに"死闘"だった。

連覇を狙うノバク・ジョコビッチ(セルビア)と、37歳にしてウィンブルドン9回目の優勝を目指すロジャー・フェデラー(スイス)がセットを奪い合い、最終第5セットに突入。

そこでも互いに譲らずゲームカウント12-12となり、今年から導入されたタイブレークにもつれ込んだ。最後はジョコビッチが競り勝ち、大会史上最長となる4時間57分の戦いに終止符が打たれた。

劇的な幕切れとなったが、今大会の前半戦を見て、「ついに錦織 圭が優勝カップを掲げるのではないか」と期待したファンもいただろう。昨年の同大会から5大会連続でグランドスラム(全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン、全米オープン)ベスト8以上に進出した錦織は今大会で進化したプレースタイルを見せつけた。

特にわかりやすい変化は、これまで課題に挙げられていた「試合時間の長さ」だ。今年の全豪と全仏では準々決勝までに接戦が多く、総試合時間はそれぞれ13時間47分、13時間22分に及んだ。それがウィンブルドンでは8時間31分にまで短縮。体力の消耗を抑えることに成功したのだ。

初戦から果敢にネットに詰めて試合時間を短縮。省エネ戦法で準々決勝まで勝ち上がった

その要因について、アマチュア時代から錦織の試合を観察する『錦織圭を鼻血が出るまで応援し続けるブログ』の管理人、netdash氏はこう分析する。

「ウィンブルドンをはじめとした芝のコートは球足が速くボールのバウンドが低くなるため、ポイントを取る"攻め球"が決まりやすい。錦織選手は芝の特性を生かし、初戦から果敢にネットに詰めて試合時間を短縮させ、ポイント獲得率も上昇。敗れた準々決勝でも、ネットプレーを得意とするフェデラー選手の31回を上回る39回と、積極的に前に出ていましたね」

また、錦織の最大の強みはラリーを続けるなかからチャンスを見つけるプレーにあるが、それが試合時間を長引かせる原因にもなっていた。しかし今大会は、攻めるタイミングも早くなっていたという。

「自分がサーブを打って返ってきたボールを決めにいく"3球目"の攻撃を重視していました。そこで攻撃できなくても、相手のボールが少しでも甘くなるとコートの中に入って攻める場面が目立ちましたね。さらに、ボールが弾みにくいスライス回転のショットを多用するなど、対策はしっかりできていました」

果敢な攻めで4回戦までは1セットしか落とさず、フェデラー戦でも第1セットを先取。勝利への期待が高まったが、"芝の王者"フェデラーが攻勢を強め、3セットを連取されて力尽きた。

特にフェデラーは、自身のサービスゲームで抜群の安定感を見せ、第2セット以降は錦織に一回もブレイクを許さなかった。

「今回の対戦では、圧倒的なサーブ力に押されてリターン返球率が61%と低調でした。ラリーを持ち味とする錦織選手ですから、フェデラー選手といえども70%は欲しかったですね」

■"BIG3"は異次元。だが、勝機はある!

ネットプレーを得意とするフェデラーを相手に積極的に仕掛けて第1セットを先取するも、芝の王者の反攻を受け惜敗

錦織が進化しているのは間違いないが、netdash氏は「世界ランキング上位3選手の強さは異次元」とため息交じりにつぶやく。

実際に錦織は、昨年のウィンブルドンから今年の全豪まで世界ランキング1位のジョコビッチ、全仏は同2位のラファエル・ナダル(スペイン)、そして今大会は同3位のフェデラーと、グランドスラムで"BIG3"に勝てない。

男子テニス界は、この3人が長らく覇権を握っている。ウィンブルドンでも、2003年からはアンディ・マレー(イギリス)を加えた"BIG4"が優勝を独占。マレーはケガによってトップ戦線から離れたものの、これだけ長期間、しかも複数の選手がトップに君臨し続けることはこれまでなかった。

現地時間8月26日から始まる全米オープンで、錦織が悲願のグランドスラム制覇を達成するために、異次元の強さを見せるBIG3とどう戦えばいいのか。

「まず、フェデラー選手に対しては、先ほども言ったようにサービスのリターン率を上げてラリーに持ち込むこと。ナダル選手は、攻撃的なテニスに磨きをかけていますが、錦織選手の好きなスピン系のボールを多用してラリーをしてくるので3人のなかでは比較的やりやすい相手なんじゃないかと思います。

現在14連敗中と最も苦手としているジョコビッチ選手は、ラリーでポイントを取る点が共通しているため主導権が握れません。特に錦織選手はジョコビッチ選手に対するサービスキープ率が61%と、近年の対全選手平均より20%以上も低い。

ジョコビッチ選手のファーストサーブに対するリターンからのポイントが取れていない(獲得率24%)のでそこを改善することと、ウィンブルドンで見せた速い攻めで活路を見いだしたいですね」

今後は、グランドスラム以外の大会で好成績を収めて世界ランキングを上げておきたいところだ。第4シードを獲得できれば、上位の3人とは準決勝まで対戦することがなくなる。全米までに間に合わせることは厳しいが、netdash氏は「そうでなくても、今の錦織選手であれば優勝の可能性はある」と力説する。

「今回のウィンブルドンで体力を温存する戦いができ、積極的な攻めも効果的でした。全米でもこの戦いを継続し、3人との試合に向けて調子を上げていければ、おのずと勝利が見えてくるはずです。

また、技術だけでなくメンタル面も充実しています。今回のフェデラー戦の前には『勝てるとは思う』とコメントしていましたが、これは14年に全米で準優勝したときに言った、『勝てない相手も、もういないと思うので』に通ずる強気な発言だと感じました。

17年に負った右手首のケガから復帰し、29歳にして進化を遂げた錦織選手が才能を本格的に開花させる時期は近いと信じています」

錦織がBIG3に勝利し、グランドスラムの頂点に立つ瞬間が早く見たい!