代表選考について語った宮澤ミシェル代表選考について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第273回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、代表選考について。いよいよこの後、カタールワールドカップに臨むメンバー26人が発表される。いま改めて過去の代表発表を振り返ると、そこには様々なサプライズがあったと宮澤ミシェルは語る。

*****

いよいよカタールワールドカップを戦う26選手が発表される。今日の14時からメンバーの名前が読み上げられるけど、どんな名前が飛び出すのか楽しみだね。

過去のワールドカップを振り返るとメンバー発表にはサプライズがあった。カズ(三浦知良)とキーちゃん(北澤豪)が外れることになった98年フランスワールドカップのインパクトは強烈だった。

その後も2002年日韓ワールドカップでは中村俊輔がメンバー外になったし、2006年ドイツワールドカップのときには、最後の最後で巻誠一郎の名前が読み上げられると、会場にいたサッカー担当記者から大きなどよめきが起こった。あの記憶があるから、みんなメンバー発表にサプライズを期待しちゃうってのがあるんじゃないか?

今回は森保一監督だから、世間が驚くようなサプライズはないと思うよ。代表引退している長谷部誠を招集すべきだって声もあるけれど、欧州チャンピオンズリーグで負傷したことを差し引いても現実的ではないよな。長谷部が加わることのメリットもあるけれど、デメリットもあるからね。チームスポーツってのは、傍から見るほど簡単じゃないんだよ。

人間がやるものだからね。コンピュータゲームのように能力値だけで選手を選べるわけではない。だからこそ、サッカーは奥深くて面白いし、森保監督は選手たちの感情を大事にしながら2018年からチームをつくってきた。そういうのを選手たちもわかっているから、W杯最終予選でチームがうまく行かなかったときにもキャプテンの吉田麻也を筆頭にして一体感が生まれたわけだよな。

でもさ、よく考えてみたら、「サプライズがない」ってのは、あくまでも受け取り側の言い分だよな。確かにサプライズが起きれば、注目度は飛躍的に高まるよ。ただ、チームをつくる側の手腕としては評価されるべきものだと思うぜ。この4年間、サプライズが起きないくらい選手たちを精査してきたってことだからね。

それにさ、選手たちにしてみれば、ワールドカップの日本代表に選ばれるのは"スペシャル"なことってのを忘れちゃいけないよな。サプライズばかりに気が向くと、順当に選ばれた選手たちへのリスペクトを欠いちゃうこともあるからね。

選手は誰もが「選ばれて当たり前だ」なんて思っていないはずだよ。「選ばれるだろう」とは思っているかもしれないけど、それと実際に選ばれることは別次元。ロシアワールドカップからの4年間、ここで名前が読み上げられることを目指してきたわけだからさ。名前が読み上げられた選手たちはひと安堵して、「よし、やってやる」と切り替えていく。彼らが気持ちよく戦える空気を、メンバー発表後からつくっていきたいよな。

だって、選手たちにとってのゴールは、ここじゃないからね。この4年間、主力を張ってきた選手であっても、いざワールドカップになったら戦い方がガラッと変わって、ベンチ要員になっていることだってあるわけだから。

2010年南アフリカワールドカップがそうだったでしょ。故イビチャ・オシムさんが病で倒れたことで、2007年12月から岡田武史監督にバトンは引き継がれて、W杯予選を戦ってさ。中村俊輔がチームの主力だったんだけど、いざワールドカップの戦いになったら中村俊輔を主力から外したよね。

あのときは直前の親善試合で結果が全然出なくてさ。「これはグループリーグ敗退かな」なんて空気が占めていたなかで、岡田監督は直前になってフォーメーションを変え、キャプテンも中澤佑二から長谷部誠に変えた。しかも、大会直前合宿では鉄のカーテンがあってさ、紅白戦やジンバブエとの練習試合で大きな戦術変更をしたのは、外部に漏れなかった。

そうした大胆な変更を加えたことで、予選までは中村俊輔のチームだったけど、あの大会から本田圭佑のチームになった。その結果、日本代表はグループリーグを突破してベスト16に進出できた。でもさ、中村俊輔のフォア・ザ・チームの精神は見逃しちゃダメだよな。彼の振る舞いがあったからこそ、直前に戦い方を変えても、チームのまとまりを欠くことはなかったわけだからね。

今回は中村俊輔のような振る舞いができる選手がいるかは気になるよな。カタールワールドカップは直前で戦い方を変えるほどの時間的猶予はないけれど、もし主力から外されてもチームのために黒子に徹することができる選手がいると信じたいよな。

日本代表はそういうところを大事にして、チーム力を高めていかないと、世界の強豪国との差はまだ埋められないわけだからさ。個の力を伸ばせばいいという意見は重要だよ。でも、個の力が世界トップレベルに追いついたとしても、そこを上回る"なにか"を切り捨てていいわけではないからね。

いずれにしろ、あと数時間後にはカタールワールドカップを戦うメンバーが発表になっている。誰が選ばれたとしても、私は"驚き"をもって受け入れたいね。そして、選手としてワールドカップを戦うという夢を実現する選手たちを、最大限に後押ししたいですね。

★『宮澤ミシェル フットボールグルマン』は毎週火曜日更新!★