今季のJリーグを振り返った宮澤ミシェル今季のJリーグを振り返った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第275回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、今季のJリーグを振り返って。参入プレーオフも終わり、シーズンの幕が閉じたJ1・J2リーグ。宮澤ミシェルは、来季からJ1に静岡勢がいなくなることが「いまだに想像できない」と語る。

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週末にあったJ1・J2の入れ替え戦は、最後の最後まで目が離せない試合だったね。J1の京都サンガが先制点を奪ったけれど、ロアッソ熊本も意地を見せたよな。コーナーキックからのイヨハ理ヘンリーの同点ヘッドは実に見事だった。

あとは、同点で迎えた後半アディショナルタイムのシュート。熊本の平川怜のシュートがポストを叩かずに、決まっていればと思っちゃうんだよな。

J3から昇格1年目でJ2で4位になって、J1参入プレーオフまで勝ち上がった熊本の躍進は本当に見事だったよな。でもさ、ああいうシュートを決められるかどうか。そこだよな。それがやっぱりJ1とJ2を分けるものになっている気はするよ。

熊本は若い選手が多いから、彼らが引き抜かれてしまう可能性は少なくないんだけど、それでも熊本にはそこのクオリティーを高めて来季に自動昇格を手にするくらい強くなってもらいたい。彼らならそれができると期待しているよ。

一方の京都は入れ替え戦にまわったけれど、シーズンの戦いは順位ほど悪かったわけではないよ。12年ぶりのJ1リーグでは、チョウ・キジェ監督のもとで京都らしさを随所に見せてくれた。

J1昇格1年目は、残留するのが難しいミッションなんだけど、それをクリアしたのは自信にしてもらいたいね。チームとしてはまだまだ成長過程にあるから、この経験を来シーズンに繋げて、来季はJ1リーグをかき回す存在になってもらいたいね。

今季のJリーグは、11月20日にJ3の最終節が予定されているけれど、この入れ替え戦でほぼ終わったんだよね。今あらためて振り返ると、全体の力の差が小さいことがよく表れたシーズンだったよな。

J1は横浜F.マリノスが優勝して、ルヴァンカップはサンフレッチェ広島で、天皇杯優勝は最終的にJ2で18位のヴァンフォーレ甲府だからね。一発勝負っていうのは力の差が表れにくいことを示した結果だったよな。

J2の長いリーグ戦を制して自動昇格を手にしたのはアルビレックス新潟と横浜FC。来季からこの2チームがJ1の舞台を戦うわけだけど、一方で清水エスパルスとジュビロ磐田が揃って来季はJ2を戦う。J1に静岡勢がいないってのは、まだピンと来ないんだよな。

静岡と言えば、昔からサッカーどころで知られてきたわけですよ。高校サッカーは打倒・静岡県勢の時代だったし、日本代表でも社会人リーグでも主役を張るような選手を数多く輩出してきた。それだけに、静岡県にホームタウンがある両クラブが揃って降格するなんてのは、我々の世代からしたら想像できないんだよな。

もちろん、いまだって両クラブ以外でプレーしている静岡出身の選手は多いよ。だけど、来シーズンのJ1に静岡の2クラブがいないというのは、時代の流れを象徴する出来事だと感じているんだよね。Jリーグ誕生の狙いのひとつである、全国津々浦々でサッカーが盛んになってレベルも上がったわけだからさ。

ただ、Jリーグ全体のレベルは間違いなく上がっているんだけれど、Jリーグのトップレベルの力も高まっているかと言ったら、そこは変わってないんだよな。そこが今後の日本サッカーの課題でもあるよな。

どういうことかというと、Jリーグっていうのは中間から下の層がグッと力を伸ばしてレベルアップしているんだけど、日本代表や次代の代表を担うような逸材は海外移籍しているために、トップレベルに位置するクラブの力は伸びていないんだよね。

J1のなかで大きな力の差がないから、リーグ戦は混戦になるし、J2とも大した差があるわけではないから、昇格プレーオフや天皇杯のように白熱した試合が生まれる。それも必要なものではあるけれど、トップクラブの力を高めていかないと、Jリーグ全体の進歩につながらないわけでさ。これは取り組み方が難しいテーマだよ。

いずれにしろ、静岡勢のいないJ1リーグっていうのは想像がまだできないよね。ただ、ジュビロとエスパルスには来シーズンからは、もう一度J1に戻ったときに1年目から上位進出できるチームをつくりあげてきてほしいな。

目先の結果にこだわることも大事だけれど、その結果としてエレベーターのように昇降格を繰り返すのではなく、ドンとした芯の通った強さを持つチームを取り戻してもらいたい。それが我々の世代がイメージする"サッカーどころ静岡"のクラブの姿だからね。

日本サッカーの視線はJリーグからカタールワールドカップへと切り替わっているけれど、Jリーグ各クラブの来シーズンに向けた動きは始まっているんだよ。日本代表を応援しつつ、来季に向けた各クラブの動きもしっかりチェックしていきましょうね!

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