昨季と比べて、今季目覚ましく進化、レベルアップを遂げた投手について、現役選手からの支持も厚い野球評論家、お股ニキ氏が徹底的に分析! 過去に何人も「大化け」した選手を言い当ててきた"目利き"は、どんな選手を挙げるのだろうか?

■真のエースへと覚醒する先発投手

昨季と比べ、進化やレベルアップ、さらには劇的復活を遂げた投手について、現役選手からの支持も厚い本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏に分析してもらおう。

カードが一巡した段階で、多くの球団がチーム防御率2点台、中日と巨人に至っては1点台という明らかな"投高打低"状態の今季、素晴らしい投球内容の投手は多いが、その中でもお股ニキ氏が「とにかく球に強度がある」と真っ先に名前を挙げたのは、西武の開幕投手を務めた今井達也だ。

昨季も10勝を挙げたが、今季は序盤の3試合で防御率0.43。「MLBでも活躍できる」と太鼓判を押す。

「軽く投げても156キロほどは出るストレートと、斜めに曲がり落ちるスラッターのほぼ2球種だけで三振を奪いまくっています。昨季まではコントロールが課題でしたが、ひと皮むけました。7回1失点は常にクリアできる投球をしており、防御率か最多奪三振のタイトルは期待できます」

今井達也(西武ライオンズ)「とにかく球に強度がある。防御率か最多奪三振のタイトルは期待できます」(お股ニキ氏) 今井達也(西武ライオンズ)「とにかく球に強度がある。防御率か最多奪三振のタイトルは期待できます」(お股ニキ氏)

続いて名前が挙がったのは「七色の変化球に加えて、ストレートの強さもあり、守備や牽制なども含めて投球センスの塊」と絶賛するソフトバンクの大津亮介。1年目の昨季は中継ぎを務めたが、先発に転向した今季はここまで2戦2勝と上々の滑り出しだ。

「倉野信次投手チーフ兼ヘッドコーチの下、球種配分や配球を見直し、チェンジアップやカッター、スプリットを駆使して開幕ローテ入り。課題は線の細さです。体重64㎏は"12球団最軽量"だそうで、一年を戦うスタミナをつけられるか。運用のうまい倉野コーチの下でなら、適度に休みながらでも2桁勝てるポテンシャルはあります」

大津亮介(福岡ソフトバンクホークス)「七色の変化球、強さのあるストレート、守備や牽制なども含めて投球センスの塊」(お股ニキ氏) 大津亮介(福岡ソフトバンクホークス)「七色の変化球、強さのあるストレート、守備や牽制なども含めて投球センスの塊」(お股ニキ氏)

パ・リーグ先発勢では日本ハムの北山亘基(こうき)の名も。4月3日の楽天戦で7回1死まで完全投球をして話題となった。

「私は京都産業大学時代から球質を評価していましたが、今季はさらに良くなっています。2試合12イニングを投げて20奪三振、奪三振率15.0は驚異的です。勝ち星はそこまで増えなくても、奪三振数では今井と争える存在。もう少し投球自体を覚えていくと本当のエースになれます」

北山亘基(北海道日本ハム)ファイターズ「奪三振率は驚異的。勝ち星はそこまで増えなくても、奪三振数で今井と争える存在」(お股ニキ氏) 北山亘基(北海道日本ハム)ファイターズ「奪三振率は驚異的。勝ち星はそこまで増えなくても、奪三振数で今井と争える存在」(お股ニキ氏)

セ・リーグ先発投手ではヤクルトの2年目、吉村貢司郎を推す。お股ニキ氏がドラフト時から注目していた投手だ。

「今季は持ち味である『振り子投法』の威力を取り戻し、ドラフト時の球威が復活。中でも、フォークのスピードと落差が素晴らしい。このまま頑張ってほしいです」

吉村貢司郎(東京ヤクルトスワローズ)「今季は持ち味である『振り子投法』の威力を取り戻し、球威が復活」(お股ニキ氏) 吉村貢司郎(東京ヤクルトスワローズ)「今季は持ち味である『振り子投法』の威力を取り戻し、球威が復活」(お股ニキ氏)

■無双が期待できるリリーフ投手

続いて、中継ぎ・抑えで飛躍しそうな投手をピックアップしていこう。まず名前が出たのは、昨季キャリアハイの53試合に登板した松本裕樹(ゆうき/ソフトバンク)だ。

「なんでもできる半面、若干、器用貧乏になりがちなタイプでしたが、ストレートの質が最高級に成長。"火の玉ストレート"の藤川球児氏(元阪神)が『僕もできなかったクラス』と絶賛したほどで、去年のWBC決勝で大谷翔平(現ドジャース)が投げた100マイルのストレートに似ています。

ただ、そのストレートに酔いすぎず、フォークを使ってさっさと勝負にけりをつければ、中継ぎで無双するでしょう」

松本裕樹(福岡ソフトバンク)ホークス「最高級のストレートに酔わず、フォークを使えば中継ぎで無双するでしょう」(お股ニキ氏) 松本裕樹(福岡ソフトバンク)ホークス「最高級のストレートに酔わず、フォークを使えば中継ぎで無双するでしょう」(お股ニキ氏)

同じソフトバンク中継ぎ陣では、2季連続で50試合以上登板の津森宥紀(ゆうき)も挙げる。

「低いアングルから伸びるストレートが武器ですが、その球をこれまでの配球では生かしきれていなかった。理想は、大勢をリードする小林誠司(共に巨人)のように、シュートライズするストレートを高めに吹かせて、スライダーとフォークを落とすコンビネーション。今季、海野隆司がマスクをかぶる際はその配球で結果を出しつつあります」

ソフトバンクではもうひとり、杉山一樹も気にかける。

「投球に少し丁寧さが出てきました。特にフォークが素晴らしく、奪三振率は15.00近くを記録。半面、ストレートはストライクがあまり入らず、ゾーンに投げると打たれがち。ストレートを見せ球にして、とにかくフォークを投げれば無双できると思います」

セ・リーグ勢ではふたりのサイドハンドに注目。まずは左腕の塹江敦哉(ほりえ・あつや/広島)だ。

「フォームをサイド気味に変更。球威やスピードが増し、左の低いアングルから150キロ以上を投げます。目指すべき理想型はMLBで400セーブ超のレジェンド、ビリー・ワグナー(元メッツなど)」

そして、お股ニキ氏がドラフト時から高く評価していたという右腕の船迫大雅(ふなばさま・ひろまさ/巨人)。

「低めのアングル、それほど力感のない柔らかめのフォームから投げられる強い球が魅力。対左打者へのカッターとシンカーが効果絶大です」

パ・リーグにも注目のサイドハンドがいる。ロッテの22歳右腕、横山陸人だ。

「155キロのストレート、スラッター、シンカーを操ります。益田直也の離脱で代理抑えを担当し、中村剛也(西武)に一発を浴びたのもいい経験。順調に成長すれば、エドウィン・ディアス(メッツ)のような守護神になれる可能性も秘めています」

新人投手でただひとり、名前が挙がったのが巨人のドラフト1位、西舘勇陽(ゆうひ)だ。

「キャンプではまだ投球フォーム、フォークの質がいまひとつで、先発デビューはもう少し先と想定していました。しかし、阿部慎之助監督は先発ではなく、"7回の男"として起用。

1イニング限定なので出力を上げて投げることができ、見事にハマった。フォークはあまり合わないダルビッシュ有(パドレス)タイプで、曲がり球が得意なのでカーブ、カッター、スイーパーを軸に、巨人の課題だった救援陣をもり立てています」

西舘勇陽(読売ジャイアンツ)「阿部監督に"7回の男"として起用され、見事にハマりました」(お股ニキ氏) 西舘勇陽(読売ジャイアンツ)「阿部監督に"7回の男"として起用され、見事にハマりました」(お股ニキ氏)

■160キロ投手が続々。注目すべき新助っ人

続いて、新外国人投手を見ていこう。お股ニキ氏が注目したのは昨季王者・阪神とオリックスにそれぞれ加入したリリーバーだ。まずは阪神のハビー・ゲラを絶賛する。

「投げ方が美しく、アメリカ時代のフォームとデータを見れば、阪神が獲得したのも納得です。160キロ近いストレートとスラッターを操り、課題だった制球も向上。岩崎優とのダブルクローザーとして活躍するでしょう。

阪神はもともと外国人投手の"魔改造"が得意ですが、ゲラもランディ・メッセンジャーやラファエル・ドリス、ロベルト・スアレス(現パドレス)のように、この球団でさらにひと皮むけそうです」

オリックスのアンドレス・マチャドは開幕早々に球団最速162キロを計測してニュースになった。

「昨季所属のナショナルズでもいい球を投げていた。160キロ台のストレートは力があり、150キロ台で縦に落ちるチェンジアップで三振を奪うスタイル。なかなかのパワーピッチャーであることは確かです」

このふたりは別格として、さらにアルバート・アブレイユ(西武)にも注目する。

「アブレイユも160キロ投手です。奪三振能力はそこまで高くないですが、しっかり抑える力はありそう。昨季所属のヤンキースでの投球も目に留まるものがありました」

先発で気になる新外国人投手は、ここまで3戦3勝のミゲル・ヤフーレ(ヤクルト)だ。

「来日後にベテラン左腕の石川雅規からチェンジアップのアドバイスを受けるなど、日本野球に適応しようとする姿勢がいい。カーブやカットボールを操る技術もあり、制球も悪くないので、左打者への攻め方を改善できれば、安定して試合をつくれそうです」

■帰ってきた異次元エース

最後に、本来は実力があるのに、昨季は活躍できなかった選手の中から、復活が期待できる投手を見ていこう。

まずは昨季、わずか4勝に終わった菅野智之(巨人)。34歳という年齢も含め、「このまま終わってしまうのでは......」と心配するファンも多かったが、本誌のキャンプ取材で直接話を聞いたお股ニキ氏は「相手チームの前に、憎たらしいほどの姿で君臨する好投手が復活。

制球、技術、フォーム、配球、メンタル、守備、頭脳、ゲームコントロールすべてが異次元で最高峰」と絶賛する。

「平均球速は150キロを超え、昨年よりプラス2.6キロ。制球力がありすぎてインコース攻めも自由自在。フォームが安定しているので、常時同じ強度と制球で投げられます」

菅野智之(読売ジャイアンツ)「憎たらしいほどの好投手が復活。戦後最高のシーズン防御率0.98を超えるのでは」(お股ニキ氏) 菅野智之(読売ジャイアンツ)「憎たらしいほどの好投手が復活。戦後最高のシーズン防御率0.98を超えるのでは」(お股ニキ氏)

さらに、取材時の対談で注目した球種の出来も開幕早々に確認できたという。

「『併殺スラットでどんどん打ち取りたい』『勝負どころではカーブも使いたい』と言っていましたが、実際に今季初戦は併殺スラット、2試合目は勝負どころでカーブを投げて締めました。村山実(元阪神)が記録した戦後最高のシーズン防御率0.98(1970年)を超えるのでは、と本気で思っています」

そんな菅野同様に復活を確信するのが、今季から先発に転向したリバン・モイネロ(ソフトバンク)だ。中継ぎでは絶対的な投球内容から"モイネロの攻撃"とまで称された実力者は、昨季途中に手術した左肘や、先発に適応できるのか、といった不安要素も一笑に付す状態だという。

「先発転向を見据えて、スタミナ面でも配球面でも、相当な準備を重ねてきたんでしょう。先発としても最上級の投球を見せています。あまりにも能力が高く、すべてが自由自在。クレバーで思いどおりに動ける菅野クラスです」

先発組でもうひとり、復活候補として挙げたのは同じソフトバンクの東浜巨(なお)。昨季6勝に終わった右腕は、今季2度目の登板で7回途中までノーノー投球を見せる安定感だ。

「今季はストレートの強度が相当いい。これだけいいのだから、もっと配球や球種選択のディテールにこだわり、7回1失点で満足しない投球を目指してほしいです」

抑え投手で復活を確信するのは巨人の大勢。1年目に37セーブを挙げて新人王に輝いたが、

「WBCも重なり、本調子ではなかったはず」とお股ニキ氏が指摘するとおり、2年目の昨季は14セーブと苦しみ、コンディション不良から登板機会も半減した。

「元来、持っているものはすさまじい上に、今季はヒールアップ投法もやめて安定感が増しました。サイドから伸び上がるストレートは160キロを計測。スプリット、スライダーも万全です。プレッシャーから解放させようと、大勢が登板する際にドームを暗くする演出をやめさせた阿部監督のケアも見事です」

環境が変わることでの復活を期待するのは、人的補償でソフトバンクから西武に移籍した甲斐野央(かいの・ひろし)だ。

「球速はあるのにリリースの仕方に問題があり、質がいまひとつだったストレートを改善すべく、速球はすべてツーシームに変更。カットボールやフォークはもともといいだけに、精神的にもっと落ち着けば活躍できる力はあります」
 
山本由伸(ドジャース)のように、ここからMLBへと羽ばたく選手が出てくるのか。今季の飛躍を期待したい。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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